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ライジング!
今や、当たり前にスマホで漫画を読む時代。
才能ある作家と、新しい読者をつなぐために――編集者は新たな挑戦に乗り出す!
とある出版社の漫画アプリ開発に秘められた、汗と涙と笑い(と美食)を描くお仕事小説、開幕!

前回、アプリのローンチ日が決まり、焦りと不安に襲われる太陽は、野島に食事に誘われ……。

小説「ライジング!」は『週刊ヤングジャンプ』公式noteでも絶賛連載中です。

※この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

第15回 大人気うどん店が教えてくれた「待つことの意義」

「ライジング!」 第15回

 実は食欲のなかった松田だったが、野島の話を聞いた後ではそんなことは言い出しにくかった。気にかけてくれた野島のためにも、嘘でも食欲のある振りをしなければ、という謎の使命感が松田の口を動かす。
「えっと、栄養満点でガツンとパンチが効いてて……でもあんまりヘヴィーじゃないものがいいです」
「……そんな食い物あるか?」
 後半につい本音が出てしまい、野島を困惑させることになってしまった。これではまるで、一休さんに無理難題を押し付ける将軍様だ。
「あの、なんでもいいです!」
「それはそれで難しいんだけどな……。でもそうだな、せっかくここまで歩いてきたし、久々に〝山川〟でも覗いてみるか」
そう言うと、野島は腕時計に目を落とした。
「良い時間だな」
〝山川〟は大人気のうどん店で、昼時は常に長い行列ができている。しかし一五時を過ぎると、客足もやや落ち着いて来るので、運が良ければ並ばずに入ることができるのだ。現在時刻は一五時過ぎ。並ばず食べるのには、ちょうどいい時間帯だった。

 しばらく歩き、店を遠目に見た野島は小さく天を仰いだ。
 時刻は一五時過ぎなのに、行列が全く途切れていなかったのだ。店の外で待っているのは二十人ほどだろうか。仕方がない。こんな日もある。
「並ぼうか」
 野島はそう言って松田と共に行列の最後尾につけた。
 しばらくすると、店員さんがメニューをもって出てきた。席に座ってすぐうどんが出てくるように、並んでいる段階でメニューを聞かれるのだ。野島は釜たまの大盛りとかしわ天と野菜天盛を、松田はきつねうどんを注文した。
 列に並んだお客さんが、一人、また一人、店内へと案内されていく。
 並んでいる店の外にも、出汁のいい香りが漂ってくる。食事を終えて店を出てくるお客さんは「美味しかったね~」等と言い合っている。
 最近食が細かった松田だが、胃が活発に動き出して急激に空腹になって来た。自分たちの番が来るのが待ち遠しい。
「野島さんはよくこの店に来るんですか?」
「いや、たまにだな。いつも並んでるから、人の少ない時間を見計らって行くんだ」
 松田はその言葉を聞いて、野島が先ほど発した言葉を疑問に思った。さっき野島は腕時計を見て「良い時間だな」と言っていた。行列の少ない時間を熟知した野島が、「良い時間」だと言ったからには、並んでいる人は少ないはずだ。しかし実際は逆で、かなり人が並んでいる。つまり野島は、行列ができる時間を「良い時間」だと言ったことになる。松田は首をひねった。そしてある答えが頭に浮かんできた。
 野島はあえて、自分を行列に並ばせるためにこの店に来たのではないだろうか。「良い時間」なのは、松田に何かを伝えるのに「良い時間」なのだ。

神保町の人気のうどん屋さん、といえば恒例の大行列
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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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