よみタイ

ライジング!
今や、当たり前にスマホで漫画を読む時代。
才能ある作家と、新しい読者をつなぐために――編集者は新たな挑戦に乗り出す!
とある出版社の漫画アプリ開発に秘められた、汗と涙と笑い(と美食)を描くお仕事小説、開幕!

前回、なかなか電子化にOKをくれない天神旭也。上司に「サインをもらってこい」と言われた太陽は、文字通りに受け取り、天神の自宅へと向かう。

小説「ライジング!」は『週刊ヤングジャンプ』公式noteでも絶賛連載中です。

※この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

第9回 編集者として絶対してはいけない「あること」とは?

「ライジング!」 第9回

 翌日、松田は一人で天神の家に来ていた。いつもは原稿終わりのタイミングで担当の藤本と来るのだが、この日は天神の一週間で唯一のオフ日である金曜日だった。松田の考えとしては、仕事ではなくファンとしてサインを頼みに行くのだから、オフの日がいいだろうと思ったのだ。
 サインをもらいに行くこと自体、編集部員なら絶対にしない〝痛い〟行動である。その上オフに自宅に行くなど、言語道断の行為だ。しかし松田は、野島の許可を得ていると思っているので、その行動にためらいはなかった。

「松田です。今日は仕事とは別のお願いがあって来ました」
「あら珍しい。どうぞ入って」
 奥さんとはすっかり顔見知りになった松田は、すんなりと家に通された。いつもは玄関から応接室へ行くのだが、その日は天神がいるというリビングへ案内される。
「あなた、お客さんよ」
「……客?」
 訝しげに振り返った天神は、松田と目が合うとあからさまに顔をしかめた。
「お前か……休みの日にまでおしかけて来られるとは思ってなかったな」
「いや、違うんです。今日は仕事関係なく、ファンとして来ました」
「ファンだと?」
「はい。実は今まで電子化のお願いをするばっかりで言い出せなかったんですけど、僕は天神作品の大ファンなんです! サインください!」
「サ……サイン――

 色紙を差し出す松田を見て、天神は絶句した。これまで何人ものクセの強い編集部員と仕事をしてきた天神だったが、サインを頼まれたことはなかった。
「休みの日に押しかけて来て、サインをくれだと?」
「はい。大好きなんです、天神先生の作品が!」

 あまりにも突飛で急すぎるお願いだ。電子化の許可を得るための、何らかの作戦だろうか……。天神はそう考えたが、松田の態度を見るに他意は無さそうだ。そして天神には、デビューのときに心に誓ったことがあった。目の前でファンからサインをねだられたら、必ず応える。この決めごとは、デビューから三十年以上経った今でも守り続けている。こんなところで記録を途絶えさせてしまうのは忍びない。

いくらファンでも、編集者たるものサインをもらうのはご法度!?
いくらファンでも、編集者たるものサインをもらうのはご法度!?
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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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