2019.4.10
「狂犬病予防注射」を人ではなく、犬に接種するのはなぜ? 日本に潜伏する狂犬病流行の危険性。
狂犬病を発症すると致死率はほぼ100%にも
狂犬病を発症した動物に噛まれると、その傷口から狂犬病ウイルスが侵入して感染し発症します。アジアの場合、人は主に犬から感染しますが、猫やコウモリなどすべての哺乳類が感染源になることがわかっています。
狂犬病になると、人は発熱や食欲不振などから始まり、水や風を怖がったり興奮状態になったりするように。やがて麻痺が起きて昏睡状態を経て死に至ります。犬は性格の変化や行動の異常から始まって、目に入るものをやたらと噛むようになり、その後、人とほぼ同じ経過をたどって死亡します。有効な治療法がないため、ほぼ100%の確率で命を落とす怖い感染症です。
犬への予防注射で発生ゼロへ。ところが…
日本で狂犬病が大流行したのは、第一次世界大戦や関東大震災が続いた1910〜1920年代です。1922年に家畜伝染病予防法が制定されたものの混乱で徹底されず、1924年だけでも約400人と約5000頭の犬に発生していました。1950年に「狂犬病予防法」で犬に狂犬病予防注射が義務付けられてから10年間で激減。1956年を最後に発生していません(動物は1957 年が最後)。犬への予防注射の実施を徹底することが大きな効果を生み出しました。
60年以上も発生していないなら、もう狂犬病予防注射は必要ない気もしますよね。でも狂犬病のない国は世界を見てみると、日本、イギリス、オーストラリアなどの一部の国だけで、実は今もなお世界のあちこちで発生しているのが現状です。近隣の台湾でも50年以上狂犬病が発生していませんでしたが、2013年に感染した動物が発見されました。
現代は欧米からさまざまなペットを輸入することが増えていますよね。出張や旅行でペットを海外に連れて行く人もいるでしょう。中には珍しい動物をこっそり持ち込もうとする人も…。日本は狂犬病ゼロとはいえ、侵入の危機にさらされている状況です。
接種率は51%まで下がっている
狂犬病の侵入のリスクがある中、予防注射の接種率が低下していることは知っていますか?厚生労働省の発表では、1990年には90%を超えていましたが、2017年度には71%にまで下がっています。この割合は保健所に「畜犬登録」を済ませた約633万頭中、約452万頭が接種した計算によるもの。ところが犬を飼っても保健所に届出をしない飼い主が相当数いるのです。
そのため、年間のペットフード消費量から、全体の頭数を算出しているペットフード協会が発表した約892万頭で計算すると、接種率は51%まで下がります。
厚生労働省検疫所では、大規模の感染を防ぐためには、接種率を少なくとも70%にすることが重要としています。そう考えると、現在推定されている接種率では危険水準と言えるでしょう。