よみタイ

おかずになるかならないか、それが問題だ……から揚げから考える「和食」の定義

博覧強記の料理人、美味の迷宮を東奔西走す!
日本の「おいしさ」の地域差に迫る短期集中連載。

前回は、日本各地のご当地餃子を考察しました。
今回からは、今や不動の人気メニューとなった「から揚げ」について。

から揚げ編① から揚げは和食なのか

「から揚げ」は和食と言えるのかというのは、なかなか面白いテーマなのではないかと思います。今やから揚げは、日本人にとってなくてはならない料理です。少し前には「から揚げブーム」なんてことも言われていましたし、日本人がから揚げを食べる頻度は、ますます上がっている印象があります。
 しかし、昔からそうだったわけではありませんでした。から揚げという調理法が辞書に登場し始めること自体が1900年代以降であり、しかも当時は魚を材料とすることが多かったようです。今や単にから揚げと言うと鶏のから揚げのことを指すのが当然のようになっていますが、それはあくまで現代の話というわけですね。
 歴史の浅さはともかくとして、から揚げ、すなわち鶏のから揚げは、から揚げ定食やから揚げ弁当としても今やすっかり日常食となっています。居酒屋では酒のつまみとしても大人気ですし、コンビニのカウンターに置かれるそれはスナック的にも楽しまれています。何なんですかね、この守備範囲の広さは!?
 和食を定義することは難しい、というかほぼ不可能ですが、個人的見解としては「少なくともご飯のおかずとして認められたらそれは和食である(十分条件)」と考えています。仮にそれを前提とするならば、から揚げは完全に和食です。ただし一方で、「から揚げはご飯のおかずにならない」と主張する人も一定数います。最近ではこちらの派閥はかなり劣勢に見えますが、どちらかと言うと年配層を中心に、まだまだ根強いようです。この差がどこから生じるのか、というのは、から揚げが和食かどうか以上に面白いテーマだと思っています。そしてこのテーマの謎を解く鍵は、年代差だけではなく地域差にもあるのではないだろうか、と僕は考えています。

イラスト:森優
イラスト:森優

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 漫画家・西原理恵子さんのご家庭のから揚げが話題になったことがありました。西原家のから揚げは、「醤油・みりん・ニンニク・しょうがをこれでもか‼︎…ってくらい入れてある」のだと言います。そしてそれを15分かけて揉み込むのだ、とも。つまり、濃い味付けが鶏肉の中にまでしっかり染み込むようにして作られる、ということですね。
 面白いのはその味付けが、西原さんの出身地である高知の「鯨カツ」の味付けをそのまま使ってある、とも説明されていることです。地域に伝わるローカルな味付けが、1970年代以降急激に普及した鶏肉(ブロイラー)にもそのまま転用された、ということでしょうか。鯨カツもおそらくそうであったように、同じ味付けのから揚げもまた、ご飯のおかずとして何ら違和感のないものとして食卓に登場したのではないかと思います。

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新刊紹介

稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter @inadashunsukeなどで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』『飲食店の本当にスゴい人々』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(柴田書店)、『チキンカレーultimate21+の攻略法』(講談社)、『カレー、スープ、煮込み。うまさ格上げ おうちごはん革命 スパイス&ハーブだけで、プロの味に大変身!』(アスコム)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)など。近著に『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)、『インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)、『食いしん坊のお悩み相談』(リトルモア)。
近刊は『異国の味』(集英社)、『料理人という仕事』(筑摩書房)、『現代調理道具論』(講談社)。

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