よみタイ

浜松、宇都宮、福岡、神戸……必然と偶然から生まれるご当地餃子たち

 関西と一言で言っても、神戸にはまた全然違う餃子文化があります。餃子を味噌ダレで食べさせる店がたくさんあるのです。最初は、「神戸は外国文化の玄関口で、中華街もあるくらいだから、中国の〇〇醬みたいな濃度のあるタレが原形になったのだろうか?」と推理したのですが、調べてみると全然違いました。
 味噌ダレの発祥は、南京町にある〔元祖ぎょうざ苑〕だと言われています。初代店主は日本人。仕事で満州に赴任していた時、故郷の味を懐かしんで、餃子に味噌を付けて食べていたそうです。そして帰国し、餃子の店を開いてから、「日本人にはこちらの方が好まれるだろう」と味噌ダレを出し始めた、ということのようです。それが神戸で支持を得て、同じような味噌ダレを出す店が増えていったとか。
 発祥に関しては他にも諸説あるものの、何しろ神戸で味噌ダレの餃子が今も愛され続けていることは間違いありません。そしてある意味不思議なのは、神戸でそれだけ支持を得ていても、他の地域にはほとんど伝わらなかったということですね。

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 支持されるかされないかは、偶然や時の運などもあるということです。もし戦後の神戸で味噌ダレを出し始める人が誰もいなくて、今誰かが突然それを出し始めても、ここから広まって定着する可能性は限りなくゼロに近い。ローカルグルメというのは、おおよそそういうものなのでしょう。だからそこには、地域的な気質や嗜好だけでは説明しきれない多様性が生まれます。
 また、神戸の味噌ダレ餃子がそうであったかもしれないように、それは1軒の店の一人の個人から始まることも往々にしてあります。それがどの程度、どこまで広まるかもまた、その時代の状況次第。おいしくなければ広まらないのは確かかもしれませんが、かと言って、おいしければ必ず広まるという単純な話でもありません。
 ことに近年の専門店では、餃子の作り手が全国の様々な餃子を研究した上でオリジナルの味を作り出すことの方が、むしろ普通なのではないでしょうか。そうなるとそこには、地域ごとの個性というより、店ごとの個性の方が強く現れるということにもなります。
 
 そんなわけで、ここまで色々な地域ごとの特性を考察してきたわけですが、実際そこには幾多の例外があることもまた確かです。分け入っても分け入っても続く餃子の迷宮。僕はとりあえず、やっぱりこれからも王将の生姜餃子を中心に吾が餃子人生を歩んで行こう、と改めて決意した次第です。

次回は8/17(土)公開予定です。

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)の展開に尽力する。
2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。
Twitter @inadashunsukeなどで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。
著書に『おいしいもので できている』(リトルモア)、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』『飲食店の本当にスゴい人々』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(柴田書店)、『チキンカレーultimate21+の攻略法』(講談社)、『カレー、スープ、煮込み。うまさ格上げ おうちごはん革命 スパイス&ハーブだけで、プロの味に大変身!』(アスコム)、『キッチンが呼んでる!』(小学館)など。近著に『ミニマル料理』(柴田書店)、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』(西東社)、『インドカレーのきほん、完全レシピ』(世界文化社)、『食いしん坊のお悩み相談』(リトルモア)。
近刊は『異国の味』(集英社)、『料理人という仕事』(筑摩書房)、『現代調理道具論』(講談社)。

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