2024.8.3
浜松、宇都宮、福岡、神戸……必然と偶然から生まれるご当地餃子たち
餃子編② 餃子の地域性
前回、東京の昔ながらの餃子は、食べる際に酢醤油ないし醤油が無いと成立しない前提の味付けなのではないか、ということを書きました。しかし注意しなければいけないのは、それはあくまで昔ながらの町中華や歴史ある専門店に限った話だということです。昨今は、スーパーで全国販売される冷凍餃子がとてもおいしくなったということがよく言われますが、そういった餃子はどちらかと言うと関西風であるという印象を僕は持っています。つまり、そのままでも充分味は付いている、薄皮でジューシーな餃子です。
東京のラーメン専門店で、サイドメニューとして出されている餃子も、同じ印象です。おそらく業務用の冷凍餃子であることが多いでしょうから、その世界でもそういう変化は既に起きているということなのでしょう。関東では酢醤油(+ラー油)が圧倒的に主流と書きましたが、実は市販の餃子のタレもそれなりには支持されているようで、もしかしたらこんなところでも「味覚の関西化」は着々と進行しているということなのかもしれません。とは言え、かつて定着した酢醤油文化がそうそう簡単に手放されることはない、というのが現在の状況なのではないでしょうか。
関東のクラシックな餃子は、テクスチャー(食感)にも特徴があります。全体にみっしりしているんですね。皮は厚め、固めで、あんもしっかり水分が抜けている。それに対して関西の、というか現代において主流の餃子は、よく言えばジューシーで、悪く言えば水っぽい。
関東クラシック餃子はそのままでは味が薄いとも前回書きましたが、もしかしたら塩分濃度みたいなことだけで言えばそんなに変わらないのかもしれません。しかし、みっしりとしたテクスチャーのものは、より強い味付けが必要となります。だから、甘味やうま味でマイルドになることのない、エッジの立ったストレートな酢醤油(ないしは醤油オンリー)が適しているのでしょう。ちなみに前回触れた〔ぎょうざの満洲〕も、関西の店舗に限っては、卓上に「餃子のタレ」が置かれているそうです。これは実際に行ったことはないので想像に過ぎませんが、そのタレはストレートな酢醤油に近い、はっきりとした味のものなのではと勝手に予想しています。
ちなみに僕が愛する「酢こしょう」は、東京の〔赤坂珉珉〕が元祖だそうですが、そこの餃子は、あん自体にかなりはっきりと醤油の味が付いています。東京クラシックとしては例外的な部類に入るのかもしれません。
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餃子自体のしっかりした味付けと言えば、思い浮かぶのは、福岡の「ひと口餃子」です。これは文字通りサイズの小ささが最大の特徴で、店によってはタレも何も付けずに食べることが推奨されます。薬味として「柚子こしょう」が添えられるのも定番です。これは嗜好の違いもあるのかもしれませんが、むしろ、のんべえに徹底的に寄り添ったスタイルという印象を受けます。九州人はのんべえが多いですからね。ご飯のおかずではなく、あくまで酒のつまみとしての餃子です。油多めで揚げ焼きに近い焼き方なのも、いかにも焼酎のつまみって感じです。酒文化もまた、その土地の料理に大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
何しろここだけを見れば関東→関西→九州と西に行くほど餃子本体の(体感的な)味が濃くなっていくという傾向は、偶然かもしれませんが、なかなか興味深いと思います。しかし同時に、全国の餃子文化は、そんな単純な傾向だけでは語れません。
ご当地餃子として有名な浜松餃子からは、関西餃子に似た印象を受けます。もはや甘酢に近いようなマイルドなタレで食べるという点も似ています。浜松餃子の特徴のひとつが、ニラ、ニンニク、生姜よりも玉ねぎが香味野菜の主役になっている点だそうです。これもまた単なる偶然かもしれませんが、「京都中華」とも共通する特徴で、ある意味関西以上に関西らしいような印象すらあります。浜松餃子と並んで有名な宇都宮餃子も、野菜主体の優しい味わいですね。
その静岡と関西に挟まれた名古屋の餃子は、福岡と同じく、餃子自体にかなりはっきりとした味付けがされているものが多いようです。もちろんタレも添えられます。外食に濃い味を求める名古屋らしい特徴なのかもしれません。
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