よみタイ

私たちは癒されたい ~「女風」に通う女たち~

セラピストに「沼落ち」……嫉妬に燃える女風ユーザーが気づいた真実

 私が梨花さんの経験に教えてもらったのは、単に女性が主体となって自分の快楽の深淵を探求することの歓びだけではない。そうではなくて、そのもっと奥深くにある劣等感まみれの自分をも慈しむことの尊さだ。梨花さんは女風と出会うことで、自分の心や体の問題と正面から対峙したのだと思う。
 私はそうやって自分に優しくあることを自ら選んだ梨花さんが愛おしく、そして頼もしくも感じた。
 
 気がつくと斜め前にいた若いカップルは、席を立とうとしている。一昔前の私であれば、劣情を駆り立てられていた無邪気なカップルたちだ。私は今も絵になるようなカップルを見ると少しだけ落ち着かなくなる。死ぬまでこの中途半端な劣等感をこれからもずっと背負って生きていくのだろう。それに比べて目の前に佇む梨花さんは私よりもずっと大人に見える。
 私は、なぜだか梨花さんとこうして会う前のことをふと思い出していた。
 青白いスマホ画面に浮かんだ、梨花さんの利用動機は「性欲の解消」という簡素な文面だった。しかし「5文字」の背景には、確かに生身の人間の「性」を巡る無数の営みがあり、そこには悲しみや喜びが息づいていることを私は改めて噛み締めた。そして、その裏面には目をそらしたくなるような感情がベッタリと張りついていたりもして、ヒリヒリと古傷のように痛んだりするということも――
 だからこそ、梨花さんの「性」との向き合い方には、自分の人生をどう見つめるのかという難題のヒントがある気がする。
 
 私たちは席を立ち、新宿駅まで一緒に歩いて改札の近くで別れた。駅は相変わらず人々で溢れている。私はいつもだったら足早に通り過ぎる駅の前で、少しだけ足を止め、その一人一人に目をやる。帰宅を急ぐ主婦、スマホに目を落としながら友だちや恋人を待っている人々、これから飲み会に向かうであろう大学生たち、杖をついた老人など多種多様な人々で溢れている。私はそこを行き交う何百人もの人たちの、それぞれの「5文字」を想像してしまい、思わず眩暈めまいがした。

次回は7/17(日)公開予定です。
前編「勉強だけしかできない……劣等感を抱えた女性が開いた『快楽への扉』」はこちら

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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