よみタイ

群ようこ「いかがなものか」
ふだん何となく思っていながらも保留にしがち、あるいは言い切れないこと。
世間で起こる事件、流行、事柄、町で見かけたことなどについて、
違和感と疑問をスパッと投げかける。
群ようこ流、一刀両断エッセイ。

第8回 外国人が好きな日本

 今年になって「オモイデはニッポンの人」という、公益社団法人ACジャパン提供のCMが、テレビ、ラジオで流れている。流暢ではない日本語を話す外国人が、日本人と触れ合って楽しかった経験を、短い言葉で伝えるという内容だ。最初はラジオで聞いて「?」と思ったのだけれど、その後、テレビで映像を見て、なぜにこのようなCMを制作し、
「2020年に向け、日本を考えよう」
 などといわれなくちゃならないのかと不愉快になった。ACジャパンは人権、障害者への理解、ペットの殺処分に関して提言するなど、いい内容のものもたくさんあるのだけれど、これはちょっとなあと思った。
 「2020年に向け……」
 といっているところをみると、
「オリンピックがあるし、日本はこれからは観光で食っていかなくちゃならないのだから、国民一同、外国の方々を失礼のないようにお迎えするように」
 ということなのだろうが、大きなお世話である。訪日した外国人の方々には、日本を楽しんで欲しいし、旅行がいい思い出になって欲しい。私もこれまでに何か国か旅行をしたが、今でもそれぞれの国で出会った人々や動物を思い出す。スペインの市場で会った、パンだけ買った私に、お店の人に生ハムをサービスしてパンにはさんであげろと指示してくれた、優しいおばちゃんとか、私が店に置いてあるレースや刺繍のすばらしさに感激していたら、その店が保存している、アンティークの手仕事の美しい子供服を奥から出してきて何着も見せてくれた、フィレンツェの洋服店のオーナー姉妹とか、道に迷っていたら、「ドコニイクノデスカ」と日本語で声をかけてくれた、台湾のおじさんとか、親切な人についてはもちろん、二十歳で行ったニューヨークのカフェの店主に、しっしっと追い払われたことなど、嫌な思いをしたことも思い出す。それでまた怒りがこみあげるわけではなく、
「そういうこともあったな」
 といった淡々とした気持ちである。旅行の思い出は国内、海外関係なく、そんなものでいいのではないか。印象がよければそれにこしたことはないが、悪いは悪いなりにそれもまた経験で、どんな出来事でもその人の受け取り方次第だろう。
 訪日する外国人に対しては、日本人と同じように接すればいいのだ。困っている人に助けを求められれば、できるだけのことはしてあげたいし、会話がうまく進まなかったら、あの手この手でできるだけコミュニケーションをとろうと考える。基本はそれでいいはずなのに、わざわざ日本人と仲よくしている外国人を登場させて、
「わかってますね、ちゃんとやりなさいよ」
 と暗にプレッシャーをかけてくるところが嫌なのだ。

 ここ何年かで、「日本人は世界でがんばっている」「日本は素晴らしい」「外国の人がこんなに好きなニッポン」といった日本礼賛のテレビ番組があることに、違和感を感じていた。たしかに日本には伝統文化をはじめ、よいところがたくさんあるのは私も認める。問題は多々あるけれど、究極の選択で好きか嫌いかと問われたら、好きと返事をする。外国人が日本の様々な事柄に興味を示して、日本人でもなかなか足を踏み入れようとしない分野の仕事に就こうと修業をしている姿を見ると、立派だなあと頭が下がる。同じく現地の人々に感謝され、とても自分にはできない生き方をしている外国人の方々に対してもそう思う。しかしなぜそんなに「外国人が好きな日本」をアピールしたいのか疑問なのだ。
 日本人は他人の目が気になって、自分一人では思い切った行動ができず、周囲に同調しようと自分の気持ちを押し込めて、摩擦が起きないようにする。それなのに外国人から評価されたとたん、実際はそうではないのに、素晴らしい能力のある人になったような気持ちになる人もいる。日本人が外国で評価されるのはうれしいことだが、それはその人の問題で、自分の問題ではない。日本人すべてが外国で評価されているわけではない。
 番組では日本が好きな外国人しか出てこないから、日本人、つまり自分たちが「世界からこんなに好かれている」と勘違いする。日本は素晴らしいとか、外国人はこんなに日本が好き、という番組の作り方は、自己承認要求が強いSNS命の人たちと根っこが同じのような気がする。私たちって、他人に評価されてるんだよね。だからもっと自信をもっていいんだよねといった、不安が根底にある自己承認。それが他人ではなく他国に変わっただけで、外国人から褒められたい私たちという、さもしい根性が透けて見えるのだ。
 その一方で、訪日した外国人技能実習生の悲惨な現状をニュースで知って、
「ひどすぎるじゃないか」
 とますます腹が立ってきた。法務省の公表によると、外国人技能実習生の死亡は、二〇一〇年から二〇一七年までで、死亡者が一七四人もいたのだそうだ。そのうち二十代が一一八人、なかには十代もいたという。それまでにも外国人労働者の激務、低賃金などは時折、話題になっていたが、実習生に対してもこんなにひどい状況だとは想像もしていなかった。死亡の理由の多くは自殺、溺死などで、何と気の毒なことかと申し訳ない気持ちになってくる。日本で働き学ぶことを夢見て、がんばってやってきた多くの若者が、最終的に死を選ばなくてはならないなんて、国として大問題である。
 国がお金を支払う外国人にはそんな冷酷な態度。その一方で、日本にお金を落としてくれる外国人には、親切にしましょうなんて、国として下品すぎる。このCMを企画する人たちは、子供の頃、親から、
「物をくれる人に、媚びへつらうものではない」
 と教わらなかったのだろうか。外国人に対する日本人の態度に関して提言するのであれば、まず日本で過酷な毎日を送っている外国人のことを考えてあげよう、なのではないのか。私はこのCMを見聞きするたびに、
「まったく何を考えているんだか」
 といつも毒づいてしまうのだ。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社、84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』を刊行。同年に同社を退職し、専業作家となる。小説に『無印OL物語』などの<無印>シリーズ、『かもめ食堂』『婚約迷走中 パンとスープとネコ日和』『咳をしても一人と一匹』『散歩するネコ れんげ荘物語』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『かるい生活』『まあまあの日々』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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