2021.1.30
「ああ、つまんない」ー高収入の男を惚れさせ、念願の結婚ゴールを果たした美人妻の本音(第1話 妻:麻美)
最後にセックスをしたのは、いつだっけ?
「はい、お待たせ」
麻美が食卓に並んだ夕食の写真を撮り終えると、康介は会社用のスマホから目を離さぬまま、無言で箸を動かし始めた。
――ああ、つまんない。
麻美はそんな夫に一瞥くれると、自分もスマホを手に取り、夕食の写真をインスタのストーリーズにアップする。
“映え”を意識した土鍋の炊き込みご飯、焼き魚、白和え、三つ葉を散らした赤だし。我ながら上手く撮れたと思っていたが、数秒後、早々にフォロワーからのリアクションがスマホに何件か届くとホッとした。暇つぶしに始めたSNSだが、つい先日フォロワーが1万人に達したところだ。
しかし目の前の夫は、依然として無反応のままである。
何か話しかけてみようかとも思ったが、話題が見つからなかった。昼間に妻友たちと食べたスイーツもご近所のゴシップ話も、この男は興味を持たない。
夫婦二人きりの生活が数年続けば、食卓はまるで葬式のように静まり返るものだ。
――ああ、つまんない。
麻美はもう一度、心の中で呟く。
無言のダイニングに、クイズ番組の司会のお笑い芸人のダミ声だけが不釣り合いに響いている。
結婚生活がこんなに味気なくつまらないものだとは、いわゆる“婚活”に必死だった20代の頃は思いもしなかった。
麻美は当時秘書として勤めていた大手事務所の弁護士である康介と結婚を決めたが、なかなか「上手くやった」と思っていた。
社内恋愛なんて安易でダサい気もする。けれど社外で延々と合コンや紹介を繰り広げるよりも、日々顔を合わせ、仕事面でそれなりの信頼を得ている分、康介とは効率よくトントン拍子で結婚を決めることができた。
出自もステータスも申し分ない、外見の見栄えも悪くない、真面目で穏やかな性格。出世の可能性も高い。
康介は目論み通り、ハリーウィンストンの指輪にリッツ・カールトン東京での豪華な結婚式、赤坂のタワーマンションの新居を麻美の希望するままに用意してくれた。
幸せな家庭を築くための条件は、完璧に揃えたはずだった。なのに。
「ごちそうさま」
早々に食事を終えた夫は妻と目を合わすこともなく、そのまま席を立ち風呂場へと向かった。麻美が食事の片付けを終え、シャワーを済ませた頃には、きっとすでにベッドで深い眠りに落ちているだろう。
必要以上の会話はない。繰り返される単調な日々。少しずつ蝕まれていく女のプライド。
そして夫に背を向けベッドに横になる瞬間、麻美は毎晩思うのだ。
最後にセックスをしたのは、いつだっけ? と。
(文/山本理沙)
※次回(夫:康介side)は2月13日(土)公開予定です。