2026.2.1
ひとり、またひとり…ヒグマ襲撃の現場に眠る慰霊のプレート。北海道カムイエクウチカウシ山「八ノ沢カール」【山の名&珍プレイス 第3回後編】
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5人のうち3人がヒグマに襲われて亡くなった、大惨劇の中心地の今
その後、部員たちは稜線をカムエク山頂方向へ向かったが、その途中で再び襲撃を受け、山頂手前から八ノ沢カール方向へと降りていく。26日には再度襲撃を受けて1人が行方不明になり、翌27日以降も繰り返し襲われ、再び登り返してきた2人を含むメンバーは次第にバラバラになりながら、ひとり、またひとりとヒグマに襲われていった。ヒグマはキスリング内の食料に執着し、それを人間が持って移動したために執拗に追いまわしたのだと考えられている。
29日にはハンターが八ノ沢カールに到着し、2人の遺体を相次いで発見。その直後に加害ヒグマは射殺される。翌日にもう1体が発見され、結局、生存者は2名のみだった。
ヒグマが射殺されたのは現在プレートが取り付けられている大岩のすぐ近くの南側で、遺体のうち2体は西側(稜線側)、もう一体は東側(谷側)で発見されている。当時の記録を見るとこれらはかなり近く、つまり大岩はまさに惨劇の中心地。カール内ではもっとも目立つ位置と形状でもあり、ここにプレートが設置されたのは当然ともいえる。ただ、岩の側面だけに、そこにプレートが取り付けられていることをあらかじめ知っていなければ、見落としてしまうに違いない。
ヒグマは2歳6か月ほどの若いメスで、体長は約130㎝。ヒグマとしてはそれほど大きい個体ではないが、それでも3人の命を奪うには十分の力を備えていたのだった。このヒグマは剥製にされ、現在は登山口に近い「日高山脈山岳センター」で公開されている。

この記事の趣旨は凄惨な事故の過程や遺体の様子を事細かに紹介することではなく、そもそもここでは書き切れるような内容ではない。詳しくは各種ウェブサイトなどから他のレポートに当たってほしい。事件から約50年後に福岡大学ワンダーフォーゲル部の後輩がまとめた記事(掲載はYAMA HACKのウェブサイト)を筆頭にさまざまな文書が見つかる。

じつは登山者がクマ(ヒグマ、ツキノワグマ)に襲われる事故は、イメージするほど多くはない。たしかに最近は山中での襲撃事故が多発しているが、犠牲者の大半はハンターや釣り人、そして山菜採りの人などで、登山者自体は意外なほど少ないともいえる。だが、やはり軽視してはいけない。カムエクでは2019年にも2人の登山者がヒグマに襲われて重傷を負う事故があり、昨年2025年には同じく北海道の羅臼岳でも死亡事故が発生した。

離島を除けば、日本でクマが生息していないのは、九州と千葉県くらいだ。クマとの遭遇を回避するには、もはや山へ行かないという選択肢しかないが、本当にそれでいいのか? カムイエクウチカウシ山の八ノ沢カール、そして大岩に付けられたプレートは、登山者に山との向き合い方への再考を促す存在なのかもしれない。

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次回、連載第4回は3/1(日)公開予定です
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