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地下アイドルとの衝撃の〈ぬいぐるみ〉セックス?!──AV男優しみけんのセックスハウツーを頼った理由

新進気鋭の風俗ライターとして、タモリ倶楽部にも出演した山下素童さん。その類まれな観察眼と描写力から生まれる文章の熱狂的なファンは多いです。
そんな山下さんの初連載の舞台は、いま新しいお店・若いお客さんが増えているという「新宿ゴールデン街」。

前回は、ゴールデン街で働いてから急激にモテ始めて山下さんがその現象を分析しました。
今回は、お店にやってきた地下アイドルとの衝撃のエピソード。山下さんが、AV男優しみけん氏のセックスハウツーに頼った理由が語られます。

連載を読んでお店に来た地下アイドル

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シナモロールのぬいぐるみを抱いた女性が店に入ってきたのは、深夜の3時を過ぎた頃だった。以前に一度デートをしたことのある、セナさんという女性だった。

僕は毎週金曜日の24時から、ゴールデン街G2通りのプチ文壇バー『月に吠える』の店番に立っている。彼女はこのゴールデン街の連載の4話目である、「彼女が僕としたセックスと動画の中のセックスは完全に同じだった」を読んで、これを書いている人がどんな人か気になってお店に飲みにきてくれた人だった。初めに店に来てくれたのは今年の1月頃で、それから何度か足を運んでくれ、3回目に来たときに「今度、飲み行きましょうよ」とカウンター越しに連絡先を聞いてきた。それから一度だけデートをした。

「Twitterフォローしちゃいますね」

新宿西口のおでん屋さんでおでんを食べているときに、Twitterのフォローをしてくれた。彼女は地下アイドルをやっていて、ゴールデン街で飲んでいることをファンの人には知られたくないようで、ゴールデン街で普段から飲んでいる人のことをフォローしないようにしているらしかった。確かに、彼女のTwitterアカウントをフォローしている人の中にはゴールデン街でよく飲んでいる人が何十人もいるが、彼女はそのどれにもフォローを返していなかった。

そんな彼女がゴールデン街の連載なんかをやっている僕のアカウントをフォローしてくれたのだから、本当に僕のことを気に入ってくれているのだな、と思った。一度デートをしたら、もうお店にはわざわざ足を運んでくれないかと思っていたけど、以前と変わらずに来てくれた。シナモロールのぬいぐるみを抱いて来たのは初めてだったけど。

彼女が店に入って来たとき、カウンターには他に3人のお客さんがいた。一度デートしたことがあるからと言って、他のお客さんの前で親密な感じをあからさまに出すのは得意ではなかった。だから彼女にどう接していいかわからず、かえって彼女とは何も会話をしなくなってしまったが、それでも彼女は「ウーロンハイおかわりお願いします」以外は何も言ってこなかった。そのまま互いに他のお客さんと会話をしながら、時間が流れていった。

「すごい酔っぱらってるみたいだね。水でも飲む?」

4時半になったところで彼女にだけそう尋ねて、グラスに水を注いで提供した。それから、「そろそろ店閉めるから先にお会計だけお願いします」と、朝まで残っていたお客さん全員に会計の金額を書いた紙を渡した。会計をした後も、自分のグラスに残っているお酒を飲みながら、なんだかんだ、全員帰るまでに10分とか20分くらいかかる。彼女には他のお客さんが最後の一杯を飲んでいる間に帰ってほしくなかったから、水を提供して、足止めをしようと思った。それから15分くらいして、彼女以外の人が帰ったところで、ドアの鍵を閉めた。やっと、誰のことも気にせず彼女と喋れる時間になった。

「来たときから気になってたんだけど、なんでシナモンのぬいぐるみ持ってるの?」
「あぁ、これ、今日、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』って映画を見に行ってきたんだけど。知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「渋谷の映画館に行って来たんだけど。そこの映画館にね、ぬいぐるみと一緒に写真を撮るコーナーがあるって聞いて。だから、シナモンも連れて一緒に見に行ってきたんだけど。ぬいぐるみ持ってきてる人、私以外に誰もいなかった」
「そうなんだ、自分だけってなかなか切ないね」

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

X(旧Twitter)@sirotodotei

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