2022.11.2
AV監督・二村ヒトシにゴールデン街で恋愛相談「二村さんって、なんでキモチワルいのにモテるんだろう?」
「君の列の方が綺麗な女性が多く並んでて嫌だなぁ」
3時間半も続いた放談イベントは、特に滞ることなくうまくいった。二村さんがよく喋ってくれたので、やはり二村さんを呼んでよかった、と思った。何かしゃべるたびに「…ということが僕の本に書かれておりまして、入り口のところで売ってるので、ぜひこの本を買って読んでください」と、他人の出版イベントで自分の本の宣伝を5回も6回もしはじめるのはさすがに「こいつめっちゃ自分の本の宣伝するやん」と心の中では思っていたけど、そのことを差し引いても、二村さんは壇上でよく喋ってくれたし、面白いことを言って会場を盛り上げてくれて、さすがだな、と思った。
トークイベント終了後、入り口の近くでサイン会をすることになった。二村さんはころころと引きずってきたトランクから自分の本を取り出して、長机の上に並べた。二村さんと隣り合って座りサイン会をしていると、「なんか、君の列の方が綺麗な女性が多く並んでて嫌だなぁ」と、二村さんが嫉妬のようなものを小声でぶつけてきた。僕も、二村さんの列の方が綺麗な女性が並んでいたように思っていたから、自分は他の人よりも恵まれていないという二村さんの変な自意識が二村さんの認識を歪ませているだけなのではないかと思ったけど、もしかしたら、自分は他の人よりも恵まれていないという僕の変な自意識が僕の認識を歪ませているだけなのかもしれず、それはどちらが正しいのか本当のところはわからなかった。とりあえず、『すべてはモテるためである』の中でモテない男は自意識過剰でキモチワルいことを自覚しろと言う割には、二村さんは自分の自意識から生じているかもしれない嫉妬をこんなにもストレートにぶつけてくる人なんだな、と思ったし、二村さんってひょっとしてキモチワルい人なんじゃないか、と思った。
しかし、そこら辺の自意識過剰でキモチワルくてモテない男と違うところは、そんな自意識を抱えながらも、二村さんがどうやらモテているっぽいところだった。サイン会を終えてお客さんがいなくなると、20代の美女2人が二村さんの近くにやってきた。話を聞くと、どうやら二村さんはイベント会場にその美女2人と一緒に来ていたようだった。高学歴男子が好きで東大の赤本を見ただけで性的に興奮してしまうという女性と、元アイドルでプロデューサーに飛びっこを股間に挿れられながらライブでダンスを踊っていたという女性の2人だった。二村さんはキモチワルいくせにモテてやがる、非モテに向けたモテ指南本を出版して売れたことによってどんどんモテるようになるマッチポンプ式の世界を生きてやがるんだ、と、この世の不条理を嘆きたい気持ちになった。
サイン会が終わったあと、登壇してくれた人たちとゴールデン街に打ち上げに行った。二村さんは自分の本が詰まったトランクを引きずりながら、一人でどんどんと歌舞伎町の繁華街の光の中を、真っ赤なコートの裾を揺らしながらゴールデン街の方に向かって歩いていった。その二村さんの背中を追いかけるように、二村さんと一緒にイベントに来ていた2人の美女が小走りしていた。僕は「2人の美女に追いかけられてて羨ましいなぁ~」と思いながら、もっと後ろの方から二村さんと2人の美女の背中を追いかけた。あかるい花園三番街の『O2』というお店に入ってしばらくお酒を飲んでいたら、初めてのイベントを終えて緊張の糸が切れてしまったのか、イベントがうまくいって安心したのか、お酒を飲みすぎたからなのか、会いたかった二村さんに会えた悦びなのか、自分でも理由はよくわからないのに僕は急に泣きはじめてしまい、近くにいた二村さんの胸に飛び込んでしまった。二村さんはギュっと優しくハグをしてくれ、揺りかごのように体を揺らしてくれた。