よみタイ

小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

これまでの連載では、元SM嬢のアヤメ歌舞伎町で働く理系女子大生リカセックスレスの人妻風俗嬢ハルカの3人の女性を紹介してきました。

前回は、処女風俗嬢・カオルの同性の恋人との付き合いが赤裸々に語られました。
恋人同士で、同じSMクラブで働く同僚でもある二人は、その後どうなったのか。一年半後、再び話を聞いたカオルは――

「初めて」の相手はお客さん……SM嬢が処女を捨てた日

風俗の仕事を離れたカオル

 前回の取材から一年半が経った――
 “期待と不安”、というか、不安の方が大きいので、”不安と期待”の心境でカオルに取材を申し込むラインを送った。
 じつは前回の取材から四カ月後に、一度だけラインで彼女が転職したこと、さらにSMクラブを辞めるつもりだということを聞いていたが、そこから起算しても一年以上ぶりの連絡である。

 時間が経過すると、過去の自分と訣別したくなった女性は、過去の自分を知る相手とのつながりを断ち切ってしまいがちだ。それはそれでしょうがないと、私は簡単に諦めることにしている。はたして彼女はどちらなのだろう。
 と、三十分ほどで返信があった。
〈お久しぶりです!
ありがとうございます!
お受けしたいと考えておりますが、どういった内容でしょうか?〉
 私は前回と似た内容で、その後のことが聞きたいと伝えた。謝礼も同じく一万円だ。
〈了解です! 大丈夫です!
基本平日(月、金)の夜か土日なら空けられます~〉
 前回とまったく変わらないカオルの反応に胸を撫で下ろす。互いの都合を調整し、十一日後の月曜日に某駅前で待ち合わせることにした。前の会社を辞めた彼女の、新たな就職先に近い駅だという。そういうことを躊躇なく明かすところも相変わらずだと思った。

「ご無沙汰してます」
 白いタートルネックセーターに白いカーディガン、細かいチェック柄のロングスカートという出で立ちで、待ち合わせ場所に立つカオルは笑顔で言った。一年半のブランクをまったく感じさせない屈託のなさだ。
 ふたりで並んで歩き、近くにあるカラオケボックスへと向かう。

「××(SMクラブ)を辞めたのって、去年の十月末だと記憶してるんだけど、どうして辞めたの?」
 個室に入ると、私はまず転職したという彼女が、前年の秋に送ってきたラインについて触れた。それは次のような文面だった。
〈ご無沙汰しております!
仕事は順調です。だいぶ落ち着いてきましたので、今月いっぱいで××を辞めさせていただくことにしました〉

「どうしてだったかなあ。まあ、普通に仕事も安定して、続ける必要がなくなったっていうか……」
「昼の仕事が安定してるっていうことだよね。ところで転職先ってどういう会社?」
「私がやってるのは事務の仕事なんですけど、××を作ってる会社です」
 どちらかといえばニッチな、すぐに特定されてしまう製品の会社であるため、ここでは詳述できないが、カオルは勤務先について製造業の会社であることを明かした。もちろん、一部上場企業だった前の会社にくらべると規模の小さな中小企業である。そのことに抵抗はなかったかと尋ねると、彼女は即答した。
「私ってあんまり会社の業績の良し悪しってわからないんですよ。それよりも、とりあえず正社員ならなんでもいいっていう、ハハハ。正社員の事務で、とりあえずどっか就ければって感じでしたね」

 いまやっているのは経理事務で、最初はいろいろ覚えることがあったそうだが、すぐに仕事には慣れたという。
「給料とかは減ったの?」
「それは減りましたね。前は手取りで二十万円くらいだったのが、いまは十七万円くらいです」
ただし、前の会社は拘束時間がとにかく長く、それにくらべれば現在の会社は定時に終わるため、負担も少ないと笑う。
「いま居るのはちっちゃい会社なんで、みんな仲良しだし、優しい人が多くて居心地はいいですね」
「××(SMクラブ)を辞めちゃってからは、風俗は一切なし?」
「そうですね。風俗は、やってなくて……」
「援交?」
「ハハハ、そうです。援交は……今年九月くらいに“パパ活”をやって、みたいな」
 照れ笑いを浮かべる。パパ活も、言葉はよりソフトになっているが、要は援助交際ということである。カオルは続けた。
「それで、昨日も(パパ活を)やったんですけど、もうヤダァ~って感じになっちゃって」
「昨日って、九月から三カ月くらいだけど、その間に何人くらいとパパ活したの?」
「昨日が三人目です」
「わかった。じゃあそれは後でゆっくり聞こうか」
 私は一旦その話を打ち切り、彼女が昨年SMクラブを辞めようと思い立った理由について尋ねた。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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