よみタイ

マンモに写らなかった影

 その際、触診とマンモグラフィーは基本で、私自身も受けていた。だが毎回、異常なしという結果だった。今回、乳腺科で受けた検査でさえ、触診とマンモで異常は発見できなかった。
「あのさぁ、節子さんとお風呂入ったことはないけど」と電話で話した折に小池真理子さんが口ごもった。「節子さん、巨乳じゃないよね。大きいとマンモに写りにくいって話だけど、どっちかっていうとヒンだよね……」
 おいっ、こら!
 ヒンだからといって全部が全部写るわけではない。だがエコーには捉えられた。
 逆にエコーでは何も発見できず、マンモグラフィーで見つかる場合もあるらしい。
 
 大切なのは、検診を受ける一方で、日常的に自分の体の状態に気を配ることではなかろうか。自分で触れたときの固いもの、何とはなしの違和感、小さな出血、張ったような重苦しさ。
 乳房に限らず、自分の体の中で異変が起きているときは何かサインがある。
 頭の良くなりすぎた人間という生き物は、しばしば体からのサインに気づかない。気づいても気づかないふりをする。
 今はそれどころじゃない、たいしたことはない、と体からの警告や訴えを無視して仕事に励み、子育てや介護にいそしむ。それが深刻な結果をもたらすこともある。
 体の声を無視してはいけない。
 おかしい、と思ったら立ち止まる。危ない、と判断したら医療機関を訪れる。その一瞬を、自分ファーストに切り替えることの大切さを、病気になって初めて知る。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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