よみタイ

美容、健康、イイ女……すべてが手に入る祖父の愛した酒

 そんなこんなで始まった養命酒生活だが、たった半月でその効果が顕著にあらわれてきた。
 まず、寝付きが格段に良くなった。布団に入って五分もすれば夢の中へと旅立てる。加えて、朝の目覚めもスッキリこの上ない。二度寝をすることも少なくなり、起きてすぐにトップギアで活動することが可能となった。
 長年悩まされてきた日常的な倦怠感もほぼ解消された。養命酒のおかげで日々の飲酒量もかなり抑えられており、ほろ酔い気分で美味しいお酒を飲めている。

 だが、一番の収穫は養命酒をきっかけに広がった友達の輪であった。

 ある日の行きつけのガールズバーにて。話のネタにでもなればと、私は養命酒の素晴らしさについて熱弁を奮った。すると一回りも二回りも年下の女の子たちから思わぬ反応が返ってきた。

「え! 私も飲んでるんだけど! アレって冷え症にめっちゃ効くんだよね!」
「うそ、びっくり! 〇〇ちゃんも飲んでるの? 養命酒って生理痛にも効くんだよね」

 それどころか、隣の席に座っていたサラリーマンのおっさんも「妻に勧められて私も最近飲み始めたんですよ。知ってますか。養命酒って性欲増進の効果もあるんですよ」と驚きの豆知識を披露し始める。
「養命酒」というキーワードをきっかけに、お店の中が和やかな雰囲気に包まれ始める。なんとも不思議な光景だ。そうか、私が知らないだけで、養命酒は沢山の人の生活を陰で支えているんだな。子供のときに思っていた通り、養命酒はまさに〝大人の飲み物〟だったのだ。

 思い返してみれば「美容」と「健康」に興味を持ち始めて以来、あの化粧水がいいとか、どこそこの店のルイボスティーがおススメだというような美容トークを、女性と楽しく話す機会が増えた。それに加えて私は「養命酒トーク」という新しい社交術まで習得してしまったようだ。
「バニラアイスに養命酒をちょっとだけかけると美味しいデザートになるんだよ。ねえ、知ってた?」と自慢気に話すガールズバーの女の子の顔を眺めながらしみじみ思う。
 養命酒を介して心の距離がグッと近づいた男と女。単に体だけが健康になるのではなく、誰かと深く繋がる心の健康も大切にしていきたい
 なあ、爺ちゃん。あんたが好きだった養命酒をネタにして、俺はイイ女をどんどん落としまくるからさ。そっちで見てておくれよ。

 美容も健康もイイ女も全て手に入れてみせる。私は養命酒でその全てを手に入れる。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は12月11日(日)21時配信予定です。お楽しみに!

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新刊紹介

爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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