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御飯の量を増やす

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 私が晩御飯に炭水化物を摂らないのは、あとは寝るだけなので、余分にカロリーを摂取する必要はないのではと思っていたからである。いくら高齢者はぽっちゃりが長生きするといわれても、そのぽっちゃりにも限度があるわけで、私の場合、身長が百五十センチ(少し縮んだかもしれない)で、現在四十八キロから四十九キロの間で推移している。二十歳のときの体重とほぼ同じだが、それでも体型は遮光器土偶である。肉がついていた位置がとことん下垂、あるいはついて欲しくない位置に移動し、体重は同じでも体全体がだらんとゆるんでしまった。
 二キロ太ると、相当、体が重く感じる。散歩しているときによくわかるし、顕著なのはお茶のお稽古で立ち座りをするときだ。二キロ分、重くなっていると、正座から道具を両手に持って立ち上がる際に、口には出さないけれども、
(どっこいしょ)
 状態になる。ぽっちゃり長生き説を信用すると、年齢的にはもうちょっと重いほうが、好ましいらしい。それでも自分が辛いと感じることは避けたほうがいいと思うので、現在の自分には、これくらいの体重が適正ではないかと考えている。
 しかし悪夢の問題は解決したいので、米の量を早速、増やしてみた。米の量が大さじ八杯分だったのを十杯にした。これで二日分の御飯を炊いて食べてみると、お腹いっぱいというわけでもなく食べられた。一週間ほど食べ続けても満腹感に悩まされるということはなかった。
 そこで試しに大さじ十二杯に増やしてみた。以前の一・五杯だが、こちらは次の食事のときに、お腹がすかなかったので、私には量が多めだったと判断して十杯に戻した。十杯はほぼ一合なので、一日、半合を食べるのが、私の上限のようだった。ただしこれから歳を重ねるにつれて、量は減っていく可能性はある。
 育ち盛りの子どもは、スポーツをしているかいないかで、食べる量の差は相当ある。柔道や相撲をしている小学生が、大きな炊飯器も空にする、とんでもない量の御飯を食べていると知って驚くことも多い。大人は重労働に携わる人やアスリート以外、それほど適正な量は違わないような気がする。身体活動量などをもとに、大人の摂取カロリーが決まるわけだけれど、データによって活動の基になる御飯、穀類の量に差があると、どれを信用していいかわからなくなる。このような基本的な食の情報は、統一して欲しいものである。
 週刊誌で管理栄養士の先生にいわれた量よりは、今でも少ないかもしれないが、ここのところずっと大さじ十杯の米を炊いた御飯を食べ続けている。一日分を四等分し、四分の一ずつを朝と晩、半分を昼に食べている。私は毎日、晩御飯の後、入浴するときに体重を量っているのだが、増えている気配はない。私の体重が増えるのは、ナッツを食べ過ぎているときで、確実にあっという間に平気で一、二キロ増えるので、とても危険なのだ。
 御飯の量を増やしていちばんよかったのは、感じの悪い夢を一切、見なくなったことだ。感じが悪い夢というのは、部分的にでも覚えているものだが、朝起きて夢を見なかったと思えるのは、いやな夢を見なかった証拠だろう。それだけではなく、楽しい夢が見られるようになった。若い頃の沢田研二と、三十五歳くらいの私が、もう一人の見知らぬ感じのいい男性と笑いながら仲よく話をしている夢である。
 いちばんうれしかったのは、ネコを抱っこしている夢だった。そのネコは二十二年以上、一緒に暮らしていた、黒白のハチワレの女の子ではなく、白地にキジトラのぶちがとんでいる子だった。大きかったので、男の子だと思う。その子は私に抱っこされて、いびきをかいておとなしく寝ていた。毛の感触までリアルに感じられた。
 そして目が覚めると、私の両手はネコを抱っこしている形のままになっていて、ちょっと笑ってしまった。今はネコを抱っこする機会がなくなってしまったので、夢ではあったが、とても幸せな時間だった。これも御飯を増やした恩恵のひとつなのだろうか。そのあたりのことは断言できないけれど、ともかく今のところ、御飯の量を少し増やしても体重は増えず、いやな夢も見ないと、私にとってはいいことばかりなのである。

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次回は10月9日(水)公開予定です。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『しあわせの輪 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』『こんな感じで書いてます』『捨てたい人捨てたくない人』『老いてお茶を習う』『六十路通過道中』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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