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美術館が主催する、地域に開かれた「認知症カフェ」の現場から@水戸芸術館【前編】

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『高校生ウィーク』と融合し、シニア世代と若い世代が出会う場に

ところで同センターでは毎年3月、高校生と同年代の人たちを主体とした交流カフェ『高校生ウィーク』が実施されている。若い世代に無料で現代美術に親しんでもらおうと1993年から始まり、今年で33年になる。しかし残念ながら『高校生ウィーク』は今年で一区切り、最後の開催となった。
3週間の開催期間の中で3月25日は『高校生ウィーク』と『ブリッジカフェ』が融合する1日になった。午前中はシニアのみの『ブリッジカフェ』であったが、午後には高校生やOB・OGたちが訪れ、シニア世代と若い世代が出会い、一緒にものづくりをしたり、会話を交わしたりしていた。

「絵手紙」ワークショップ 撮影:仲田絵美 提供:水戸芸術館
「絵手紙」ワークショップ 撮影:仲田絵美 提供:水戸芸術館

『高校生ウィーク』スタッフの学生たちは、「学校では(先生以外)同世代にしか会えないので、異なる世代に会えるのは嬉しい」と話す。将来、教育者やカフェ経営者を目指す若者もいて、様々なワークショップが行われるこの場所は貴重な経験になっていた。

『高校生ウィーク』を開設時から担当してきた森山さんも「いろいろな大人と出会い、いろいろな人生や考え方があるんだなと知ることが大切」だと語る。「今回『ブリッジカフェ』を組み合わせたことで、地域にお住まいの一般の方たちの人生に触れられたことも良かったなと思います。高齢の方たちにとっても、若い人たちと話すことは元気の源になりますよね」。

認知症にはもの忘れや見当識障害(時間や空間がわからなくなる)など様々な症状があるが、その表出の仕方はまさに個々別々で、特に軽度の場合は一見して見分けがつくものでもない。
今回は支援者も同行しており、カフェに集う人々は自然に接していた。棚の上には認知症に関するパンフレットなど資料も置かれ、手に取れるようにもなっていた。

午後はたくさんの人が訪れたが、穏やかな賑わいだった。介護施設からショートステイの外出枠を利用して、介護福祉士に伴われて訪れた利用者たちは、普段はベッドで過ごすことが多いと聞いた。もし自ら話さない高齢者がいても、一歩外に出ることで活性化につながる。
また、現在の介護現場では外国からの働き手にもよく会うようになったが、現場で働く支援者自身にとっても美術館を楽しむひとときであったらいいなと思う。
家族や支援者から「安心して外出ができる先として美術館にこういう場があるといいですね」と喜ばれるようになったと後藤さんも語る。

中川さんも「『ブリッジカフェ』以外でも、福祉施設からの来館を受け入れてきたので、ケアするつなぎ手が、水戸芸術館はこんな感じで活用できるんだな、とわかってきてくれている気がします。
それぞれのニーズに合わせて美術館のプログラムを利用したり、提案をいただいたりするようになってきましたね」と語る。森山さんが言うように、福祉領域の担当者たちが美術館の「使いこなし」の段階に入ってきたのだろう。

介護施設からの訪問。アルバムをめくりながら話が弾む。撮影:仲田絵美 提供:水戸芸術館
介護施設からの訪問。アルバムをめくりながら話が弾む。撮影:仲田絵美 提供:水戸芸術館

「水戸芸術館にはよく展覧会を見に来ているけれど、チラシでブリッジカフェを知り、友達と連れ立って訪れてみました」というシニアの女性たちもいた。感想を聞くと「皆さん親切で楽しかったので、またあったら来たい」と笑顔で帰って行った。

しかし、実は『ブリッジカフェ』は2025年度で一区切りとなる。残念なことだが、後藤さん、森山さん、中川さんは、今後も展覧会などを軸に、多様な人々に訪れていただけるよう他施設との連携を続けていきたいと語っていた。

美術館は、作家や学芸員のみならず、来館者がその可能性を広げる場所でもある。後編では、美術館でなぜケアとアートのプログラムが必要か考えてみたい。

次回後編は4月24日(金)公開予定です

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白坂由里

しらさか・ゆり●アートライター。『WEEKLYぴあ』編集部を経て、1997年に独立。美術を体験する鑑賞者の変化に関心があり、主に美術館の教育普及、地域やケアにまつわるアートプロジェクトなどを取材。現在、仕事とアートには全く関心のない母親の介護とのはざまで奮闘する日々を送る。介護を通して得た経験や、ケアをする側の視点、気持ちを交えながら本連載を執筆。

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