2026.4.10
美術館が主催する、地域に開かれた「認知症カフェ」の現場から@水戸芸術館【前編】
これらには、視覚・聴覚障害のある人とない人がともに楽しむ鑑賞会や、認知症のある高齢者のための鑑賞プログラムなど、さまざまな形があります。
また、現在はアーティストがケアにまつわる社会課題にコミットするアートプロジェクトも増えつつあります。
アートとケアはどんな協働ができるか、アートは人々に何をもたらすのか。
あるいはケアの中で生まれるクリエイティビティについて――。
高齢の母を自宅で介護する筆者が、多様なプロジェクトの取材や関係者インタビューを通してケアとアートの可能性を考えます。
前回はアーティストでありながら介護職にも携わる宮田篤さんの「微分帖」という作品について紹介しました。
連載19回目の今回は水戸芸術館が主催する認知症カフェ、「ブリッジカフェ」を取材しました。
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その日、美術館の片隅でさまざまな人生が交差していた。一人で訪れた高齢の女性は、コーヒーを片手に女子高生とのおしゃべりに花を咲かせている。また、あちらのテーブルでは車椅子の高齢者や介護施設のスタッフたちがアルバムをめくりながら談笑している。2026年3月25日、水戸芸術館現代美術ギャラリー(以下、水戸芸術館)ワークショップ室で開催された、高齢者とアートをつなぐカフェ形式のプログラム『ブリッジカフェ』での一幕だ。

水戸芸術館ではかねてより、乳幼児や高齢者、障害者など多様な来館者が安心して過ごすことができるよう入場料の減免制度や館内設備、スタッフによるガイドといったアクセシビリティの向上に取り組んできた。
また、未就学児とその保護者が美術館スタッフとともに鑑賞する『赤ちゃんと一緒に美術館散歩』、全盲の美術鑑賞者・白鳥建二さんをナビゲーターとして、目の見える人と見えない人が一緒に展覧会を鑑賞する『視覚に障害がある人との鑑賞ツアー「session!」』など様々なプログラムも行われている。
それらを含み、2024年度から「ブリッジ アートとケアをつなぐ」と名付けて、より1人1人の来館や滞在のためのケアに取り組んできた。企画・担当したのは水戸芸術館現代美術センター学芸員の後藤桜子さん、教育プログラムコーディネーターの森山純子さんと中川佳洋さん。『ブリッジカフェ』もその一つで、高齢者対象のプログラムは以前から行われているが、認知症の方を受け入れる「オレンジカフェ」(※1)のような試みは初のこと。ケアにあたる家族や地域住民、専門職などを含め、どんな人も気軽に交流できる場をつくろうと、2025年度は9月と2026年3月に開催されることとなった。
※1:認知症の当事者やその家族、地域の人々、介護や福祉などの専門家など、誰でも集える場、コミュニティのこと。「認知症カフェ」とも呼ばれ、地域の専門職やボランティアなどによって運営されている。認知症施策の一環として2012年から国が推進している。
手仕事やおしゃべり、お茶を通して居場所をつくる「ブリッジカフェ 」
そんな『ブリッジカフェ』の取材は9月に続いて2回目となる。あたたかみのある色彩に囲まれた空間に「おしゃべりカフェ」「てしごとカフェ」「8㎜フィルムをみよう」「心配ごとのご相談」といったテーマごとに分かれたテーブルが並び、セルフサービスのお茶やコーヒーを味わいながら楽しめる。
また、開催中の企画展『飯川雄大 大事なことは何かを見つけたとき』を、水戸芸術館のボランティア・CACギャラリートーカーと一緒に鑑賞することもできる。
今回の企画展は、壁に仕込まれたハンドルを回すなど、観客が働きかけることで空間が変容するというもの。来場者は何が起きるのか謎に思いながらも、楽しげに身体を動かしている。そんな鑑賞者の姿もまた作品の一部となる。

「おしゃべりカフェ」では、水戸市で制作された「認知症456(すごろく)」を体験。皆で認知症予防の体操をし、どんな症状があるのか、どんなサポートがあるのかを知ることができる。在宅介護か施設かを選ぶ分かれ道では、母を在宅介護中の筆者は身につまされる。遊びの中にもリアルさがあり、笑いが起きて気持ちが軽くもなり、よくできているなあと思った。

また、9月21日は「認知症の日」(世界アルツハイマーデー)とされており、様々なイベントが全国で同時開催されている。会場では、昨年のこの日に水戸市内の「いいあんばいレストラン」と共催したイベントの記録映像も上映されていた。
「いいあんばいレストラン」とは、「注文をまちがえる料理店」(東京都)が始めたイベントの一環で、認知症高齢者が店員の役目を務める。館内1階のコーヒーショップ「サザコーヒー水戸芸術館店」で、一日限定で行われた。
店のスタッフが特別に考案した水戸市の鳥ハクセキレイをモチーフにしたケーキやラテアートなどを、エプロンを身につけたお年寄りたちが給仕する。会話を交わすお客もまた幸福そうだ。

「てしごとカフェ」では、紙筒に色を塗り、花の形のコサージュのようなものを作るワークショップが行われていた。水戸市の認知症サポーター養成講座を受講した市民ボランティア「何かやり隊」が考案したもので、参加者それぞれのアレンジにより様々な形が生まれていた。
また、日本絵手紙協会公認講師・前野郁子さんのもとで絵手紙を描くテーブルも人気を集めている。墨をつけた筆を和紙から離さずに直線と曲線を引く練習をした後、自由に好きな絵柄や文字を描く。
また別のテーブルでは、紐を編んで小物を作るワークショップ「ひもこもの」も行われている。飯川雄大展でロープが使用されていることに因んだもので、ルールは単純だが少し複雑で根気のいる手作業だ。


『ブリッジカフェ』の情報を知り、ガイドヘルパー(障害を持つ方の外出をサポートする移動介護従事者)に自ら連絡して一緒に訪れた男性の姿もあった。
以前、白鳥建二さんの『視覚に障害がある人との鑑賞ツアー「session!」』にも参加したことがあるという。絵手紙で、墨で馬のシルエットを描くと、スタッフが「紙を回して絵を縦に見ると、赤ん坊を抱いた母親にも見える」と発見。紐を編む手先も器用で、ガイドヘルパーに見守られながら時が経つのも忘れて熱中していた。

また、「8㎜フィルムをみよう」というテーブルでは、水戸市民から提供された懐かしい映像が壁に投影されている。
以前から水戸芸術館と remo[NPO法人 記録と表現とメディアのための組織](大阪市)との共同企画で行われているプログラム『ホーム・ムービング!』からの映像で、親やその上の世代が撮影し、しまい込まれていたような8㎜フィルムを収集し、デジタルアーカイブを作成。市民や画像提供者に聞き取りを行い、まとめた冊子もある。
「谷中の二十三夜尊」と呼ばれる昭和30年代の桂岸寺(かつて小さな動物園もあった)、真新しい特急ひたちを映した昭和50年代と思われる映像……。高齢者が昔を思い出し、若い世代が初めて知る風景も。

窓際には「心配ごとのご相談」を受け付けるテーブルもあり、水戸市の高齢福祉課から相談支援員が訪れ、年齢を重ねる中での不安や、ケアの担い手の悩みなどに答えていた。誰もが忙しい世の中で、当人はもちろん、ケアを担う者にもゆっくりと話を聞いてくれる人や場が必要だ。
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