2026.2.20
ケア現場での意見の違いや違和感をどう受け止める? 違いを楽しむ@≪微分帖≫ワークショップ【前編】
記事が続きます
微分帖を向かいの人と体験してみる。違いが楽しい
参加者がグループに分かれて、いよいよ微分帖ワークショップが始まる。まずウォーミングアップとして、文を書くストレッチが行われた。テーブルの上に重ねられた紙を1枚ずつ取り、「私はこれが好き、というものを思いつくままにたくさん書いてください。例えば、私はりんごが好き。 りんごの赤いところが好き。味が好き。冬に食べるりんごが好き……というように、どこが好きなのかを詳しく羅列するように書き出してください」と宮田さん。
グループごとの発表では「私はハンバーグが好き。 美味しいから。唐揚げは居酒屋の唐揚げが好き。 読書も好き、映画も好き、犬はハスキーが一番好き。 でかくてモフモフしていて、でもちょっとおバカな感じが」とどんどん続くグループもあった。
次はそれを裏返すように嘘を書いていく。ハンバーグが好き、と書いていたら、私はハンバーグが嫌い。 脂が多いから嫌い。 注文してから出てくるまで時間がかかるから嫌い。 暑すぎるから嫌い、というようにひっくり返していく。
さて、ケアの現場での報告書や計画書など普段の書き仕事から離れて、いつもと違う気分になって筆が軽くなってきたところで、いよいよ本番だ。1枚の紙を2つ折りにしたできた4ページに1つのお話を書いていく。 今日あったことを書いてもいい。筆者と同じグループの女性が「おはようと/娘が踊った/どんどんと/地面が揺れた」と書き、読み上げてから向かいの人に渡した。
次に、そのお話をもらった人が、自分のお話を足して真ん中に入れる。 「おはようと/娘が踊った/うれしそうに/仲間もさそって/輪ができた/みんな一緒に/どんどんと/地面がゆれた」。
(青字が追加になった4ページ分の文章)
宮田さんは「最初の自分の話を受け止めてくれて、その話に相手の話がくっついて、また新しい物語として返ってくることで、承認を受けたような、自分のちょっとしたお話を一旦引き取ってくれたっていう感じがある」と微分帖の好きなところを吐露した。

次に、同じ話を2人に渡したらどんな違いが生まれて返ってくるか。これまで同様、紙を2つに折り4ページに1つお話を書いたら、同じものをもう1つ作成して、自分の右側の人と左側の人にそれぞれ読んで聞かせて渡す。もらった2人はそれぞれに2つ折りにした紙に新しいお話を書いて差し込む。

その後、それぞれのグループから発表があった。1つのお話から2つのお話が生まれ、どんなふうに違いが出ただろうか。
まず1人目の1枚。「おみこしを/年間30回担いで/神様同士が/仲良くなりました」。
次に2人目がもう1枚差し込んでできたお話。
「おみこしを/年間30日担いで/沢山の神様と/仲良くなった/僕のおかげで/30神社の/神様同士が/仲良くなりました」。
(青文字が追加になったページ)
かたや別の人が差し込んでできたお話は
「おみこしを/年間30回担いで/肩も腰もボロボロになって/病院通いが増えたけど/病院で新しい仲間ができて/おまけで10回お祭りに参加したら/神様同士が/仲良くなりました」。
(緑文字が追加になった4ページ)
毎年お神輿担ぎに情熱を賭けている人かもしれない。笑いとともに拍手が起きた。同じ題材でも言葉の使い方でニュアンスが変わり、違いが否定されることもなく、むしろ表現が増えていく。
別の1枚目。「あついあついと言いながら/絶対にコートを脱がない。/たぶん なにか、/なにか あるのだろう。」
2人目がもう一枚差し込む。
「あついあついと言いながら/絶対にコートを脱がない。/脱いだら?と聞くと/脱がない。と言い/暑くないの?と聞くと/脱がない。と言う/たぶん なにか、/なにか あるのだろう。」
また別の人が差し込んでできたお話は
「あついあついと言いながら/絶対にコートを脱がない。/時々脱ぎたくなる。/気分とは変わりやすいものだから。/それでもやはり脱がないの。/おもしろいよね。/たぶん なにか、/なにか あるのだろう。」
発表で読み上げる声や間が読み聞かせのようで、介護の場面でよくありそうな高齢の利用者さんの情景が目に浮かぶ。笑いが溢れつつ、相手を観察する眼差しに心温まった。
微分帖は見方を変える。答えはないけど否定もない
発表では、それぞれのグループから様々な感想が挙がった。「その人の中にちょっとお邪魔させてもらって、対話になっていく面白さがあった」「介護職のサービス精神なのか、微分帖をやっていくうちに、聞く人を楽しませたいという気持ちも出てくる」。
初対面でも打ち解けやすいことを証明するような、プライベートな食のエピソードも面白かった。
1枚目「激辛の/おいしいラーメン/はまってよく食べるけど/翌日の腹痛が恐い」。 2人目がもう一枚差し込む。「激辛の/おいしいラーメン/香りがよくて/店の前を素通りできず/スタンプたまると/1杯無料になるとかで/はまってよく食べるけど/翌日の腹痛が恐い」。
宮田さんは、「美術作家としては紙を重ねて折っていくことで、たくさんのお話が生まれる不思議さなどを感じています。 僕自身、介護福祉のキャリアでは、サ責 1 年目で悪戦苦闘しているんですけれども、今日皆さんが発見した気づきを僕も持ち帰って現場に活かしていけたらと思っています」と結んだ。
例えば、チームビルディングでは、看護職、医療職、訪問介護のスタッフそれぞれが、利用者にとってはこの方法が正しいのだ、と信念として対立してしまう場面もあるかもしれない。
あるいは個別ケアでは、利用者の言葉の奥の本音が掴めない場合もあるかもしれない。介護の現場は教科書通りにはいかないことも多い、答えのない世界だ。そんなとき微分帖を思い出して、自分と他者の違いを面白がるといいのかもしれない。
真剣に取り組み、感嘆の声をあげていた参加者たちの姿を見て、それぞれの現場で微分帖が早速行われていたら、豊かな風景になるだろうと思った。この場にいない、ケアを受ける人々が「微分帖」を書く姿を想像した。
次回は2月27日(金)公開予定です
記事が続きます
![[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント](https://yomitai.jp/wp-content/themes/yomitai/common/images/content-social-title.png?v2)
















