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ケア現場での意見の違いや違和感をどう受け止める? 違いを楽しむ@≪微分帖≫ワークショップ【前編】

手話通訳や音声サポートなどのアクセシビリティ(情報保障)をはじめ、誰もがミュージアムを楽しめる取り組みを総称してアクセス・プログラムといいます。
これらには、視覚・聴覚障害のある人とない人がともに楽しむ鑑賞会や、認知症のある高齢者のための鑑賞プログラムなど、さまざまな形があります。
また、現在はアーティストがケアにまつわる社会課題にコミットするアートプロジェクトも増えつつあります。

アートとケアはどんな協働ができるか、アートは人々に何をもたらすのか。
あるいはケアの中で生まれるクリエイティビティについて――
高齢の母を自宅で介護する筆者が、多様なプロジェクトの取材や関係者インタビューを通してケアとアートの可能性を考えます。

前回は茨城県の精神科、袋田病院の取り組みについて紹介しました。今回は、連載バナーのイラストを描いていただいた、宮田篤さんの取り組みについて紹介します。

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この連載「ケアとアートのダンス アクセシビリティのためのプロジェクト・レポート」のバナーイラストを描いてくれたのは、アーティストの宮田篤さんだ。宮田さんはアーティスト活動を続けながら、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に併設する訪問介護事業所のサ責(サービス提供責任者)としても日々奔走している。

宮田さんによる「ケアとアートのダンス」のバナーイラスト
宮田さんによる「ケアとアートのダンス」のバナーイラスト

サ責とは、利用者が適切な介護サービスを受けられるよう調整・管理する専門職のこと。福祉の現場を肌で感じているからだろう。このイラストレーションをお願いした時にも、「知人の介護スタッフによる車椅子からの移乗の動作が、『ケアする/される』を超えて、息やリズムを合わせた即興的なダンスに見えた」というエピソードがすんなり伝わった。ちょっとしたリアルさの中にもユーモアのある絵が返ってきて嬉しかった。

その宮田さんがワークショップを行うと聞いて、1月30日に行われた「遊びながら学ぼう!『あなたを知る、わたしを知る』体験ワークショップ」に参加してきた。
同イベントは、介護保険に関わる行政の施策や民間の取り組みを取材・発信する専門週刊紙『シルバー新報』と、ケアマネジャーをサポートする月刊誌『月刊ケアマネジメント』を発刊する環境新聞社と、介護や医療従事者が本音で語り合えるイベントを開催する「未来をつくるkaigoカフェ」の共催で行われた。

ちなみにケアマネジャー(正式名称:介護支援専門員)とは、サ責同様、介護保険制度において、介護を必要とする人が適切なサービスを受けられるよう調整し、ケアプラン(介護サービスの利用計画)を作成する専門職のこと。高齢の母を在宅介護する筆者もケアマネさんには感謝してもしきれない。

複数人でちょっと不思議なお話をつくりだすワークショップ

会場である新宿区四谷保健センターの多目的室に入ると、介護や福祉に関わる人はもちろん、福祉とアートのプログラムを学ぶ美大生、一般読者など、様々なバックグラウンドを持つ人々が50人ほど集まっていた。今回は、宮田さんが考案した、複数人でお話をつくるワークショップ「おとなもこどももあそべるぶんがく《微分帖》(以下、微分帖)」を体験する。ちょっとソワソワ、ワクワクするような雰囲気だ。

最初に、宮田さんが手づくりのパネルを使って、微分帖とは何かを説明した。「文章って、たいてい最初から最後に向かって書いていきますよね。けれど微分帖は外側から書いていくものなんです」。

右はアーティストの宮田篤さん。ユニットパートナーの笹萌恵さん(左)と微分帖について説明。写真提供:シルバー新報・月刊ケアマネジメント編集部
右はアーティストの宮田篤さん。ユニットパートナーの笹萌恵さん(左)と微分帖について説明。写真提供:シルバー新報・月刊ケアマネジメント編集部

「まず1番目の人が、紙を2つに折り、表と裏4ページ分にお話を書きます。例えば『みんなで/パンを/食べた/ おいしかった』。単純なことでいいんです。それを相手に渡します」。

「次に、渡された2番目の人は、別の紙を2つに折った4ページ分に、前と後ろがつながるように新しくお話を書いて差し込みます。『みんなで/パンを/こねたり/焼いたり/作って/バターつけて/食べた/ おいしかった』。
青字が追加になった4ページ分の文章)

3人目はさらに別の紙を2つに折り、前と後ろがつながるようにして新しくお話を書いて差し込みます。『みんなで/パンを/こねたり/焼いたり投げたりする/大会があって/さんざん騒いで/飽きて豆腐作って/バターつけて/食べた/おいしかった」。
ピンク文字がさらに追加になった4ページ分の文章)

微分帖のしくみ ©️ Atsushi Miyata
微分帖のしくみ ©️ Atsushi Miyata

予想外の展開のお話が生まれた。「3人目は少し変わった人なのかもしれませんね(笑)」と宮田さん。「最初の、パンを食べておいしかっただけの話が、ページが足されるごとになぜかちょっと不思議なお話になりました。ある意味取るに足りないおかしみのある話ですが、3人が出会ったことでしか生まれない流れになる。微分帖の面白さの1つをそこに感じています」。

© Atsushi Miyata
© Atsushi Miyata

微分帖の秘訣は「ゆだねて育てる」ことだという。「たいしたことが書けなかったと思っても、 2人目の展開に驚かされることもあります。文章には書かれたもの以外にも文脈や背景がある。1人目は食パンを思い浮かべていたかもしれないし、 2人目はアンパンだったかもしれない。そんなちょっとした他者との違いにも気づきやすく、気づいて楽しみやすい遊びだと思います」(宮田さん)。

『月刊ケアマネジメント』編集部の吉川しづかさんが「微分帖をやってみると相手への興味が湧いてくる。チームビルディングや個別ケアのヒントにもなるのではないかと思います」と参加者に投げかけた。
介護におけるチームビルディングとは、介護を受ける人の希望に合うような、ケアマネジャーを中心とした他職種とのチーム連携、さらに事業所や施設内でのスタッフ同士の関係構築を指す。

「未来をつくるkaigoカフェ」代表の高瀬比左子さんは、「お互いの苦手を責めずに補い合うことを事業所内の運営で明文化することで、介護スタッフの心理的安全性が高まりケアにも好影響があったという事業所もあります」と、介護事業所でのチームビルディングの重要性を語った。

また、個別ケアとは、例えばおむつ交換や食事介助など介護を受けるその人その人に合うように手順やペースなどを組み立ててケアすることを指す。宮田さんも「みんなそれぞれ異なる背景を持った個人であるという、美術の世界ではあたりまえに思われているような考えが少しでも前提にあると、例えば利用者Aさんの一見理解できないような行動にも、何か理由があるのかもしれないと立ち止まって考えられるようになると思います。僕自身、微分帖から得た気づきを介護の仕事に活かすようなことがあります」と話した。

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白坂由里

しらさか・ゆり●アートライター。『WEEKLYぴあ』編集部を経て、1997年に独立。美術を体験する鑑賞者の変化に関心があり、主に美術館の教育普及、地域やケアにまつわるアートプロジェクトなどを取材。現在、仕事とアートには全く関心のない母親の介護とのはざまで奮闘する日々を送る。介護を通して得た経験や、ケアをする側の視点、気持ちを交えながら本連載を執筆。

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