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正統派フレンチシェフの作る居酒屋料理にみんなが恋に落ちるワケ 〜BOLT〜

「綾子さんに聞けば間違いない!」――美味なレストランも気の利いた手土産もとびきりのお取り寄せも、おいしいものには死ぬほどうるさいギョーカイのみんなが頼りにするのが、フードパブリシスト高橋綾子のグルメ手帖。誰もがうなる美味の数々を惜しげもなく公開します!

近所にこんな店があったら……ってセリフがありますが、本当にここはそう思います。
帰り道にちょっと覗いて、「あ、1席空いている。こんばんは〜」って入りたいお店です。

そんな人が多すぎて、もう予約なしでは伺えなくなってしまいましたが。

今回ご紹介するのは牛込神楽坂駅のA1出口から1分ほど歩いたところにある「BOLT」です。

「ボルトとナットで物をつないでいくように、今までお付き合いのあるお客さまと、BOLTからのお客さまをつないでいきたい」との想いでつけた店名の通り、仲田高広シェフとシェフが作るお料理は食いしん坊の大人たちをつないでいます。

扉の前に立っただけでその向こうからあったかい雰囲気が伝わってくるような、入りたくなるオーラが満載。

迎えてくれるのは仲田さんご夫妻。職場結婚してこのお店を始めました。
仕事も家庭も一緒でケンカしないの?と訊くと「僕が苦手なことは妻が得意なので感謝しています。仕込みはひとりでやるし、外食はそれぞれの友達と行ったりするので四六時中一緒ってわけでもないので」とのこと。

いつもニコニコ仲睦まじいおふたりです。

本当にいつも食べたいものばっかりで困るなぁ。

この中だと「いくらのケヴェルツマリネ セルベルドカニュ 吉田パン」は必須。

東京の正統派フランス料理店→フランスへ→帰国して居酒屋→フランス→オーストラリア→また居酒屋、そして最後はフレンチ居酒屋

これはフロマージュブランにフレッシュハーブと塩胡椒を加えたセルヴェルドカニュというリヨンの郷土料理を吉田のパンに塗って、ケヴェルツェというちょっぴり甘めのワインと醤油に和えたいくらをたっぷりかけたブルスケッタみたいなもの。
いくらがパンでもイケるのに驚きました。これは西洋料理に和食のテイストをプラスした感じですが、逆に和食に西洋料理のテイストをプラスした感じだと……、

「柿とリコッタチーズの白和え」
「柿とリコッタチーズの白和え」

「柿とリコッタチーズの白和え」かな。
だって見てください、このビジュアルを!

和食のおつまみ的存在である白和えがなんとも美しいアペタイザーに変身。リコッタチーズがまるで粉雪のよう!
味のバランス、食感、完璧です。

「牛蒡とロニョン・ド・ヴォーの温きんぴら」
「牛蒡とロニョン・ド・ヴォーの温きんぴら」

これも食べて欲しいもののひとつ、「牛蒡とロニョン・ド・ヴォーの温きんぴら」です。
ロニョン(仔牛の腎臓)なんて滅多に食べないからおいしい基準がわかりませんって言う人も、百聞は一見に如かず、とにかく食べてみてください。

臭みのないロニョンのプリンとした食感、醤油と赤ワインビネガーがしみ込んだ牛蒡と一緒に頰張るときんぴらの世界観が変わります。

フランス料理を軸にした楽しいメニューは、仲田さんの東京の正統派フランス料理店でガッツリ修業してからフランスへ旅立ち、帰国後は居酒屋で働き、またフランスへ行き、そしてオーストラリアに2年半、また居酒屋という面白い経歴が源。
日本人のための店なので日本人はどんなものが好きかと考えるには、オーストラリアや居酒屋で働いたことが役立っているそう。

でもやっぱりフランス料理が好きなので、メインはすべてフランス料理の基本である“肉とソース”だけにしているそう。。
普通は彩りで野菜を添えたりするけれど、こちらは牛も豚も鴨もシンプルに肉だけがお皿にのっています。理由は、添え物があるとお腹いっぱいになってしまうこともあるのですが、料理はすべてひとりでやっているのでお客さまをお待たせしない術でもあるんですって。

おつまみからメイン、デザートまでアラカルトでいただけるBOLTはハレの日にも、ただの外食の日にも、ワイン一杯だけとかごはん一品だけでもOKの“究極のオールマイティーな店”なのです。

まぁ、ごはん一品で寄ったつもりが、いつの間にやらガッツリ呑んで食べちゃったりしてしまいますが。

「スープドポワソンカレー」
「スープドポワソンカレー」

そんなんでシメごはんで食べて欲しいのが「スープドポワソンカレー」。
なんか見た目が可愛くないですか?
私には三日月に見えるのですが、みなさんはどうでしょう?

具はな〜んにも入っていません。
しかしこのカレーにはフォンドボーにいろいろなお肉のジュ(焼き汁)に、おいしい出汁がたくさん入っています。
もう、火にかけてる時から良い匂いがするのです。

スープカレーなので口当たりはサラサラ。どんなに酔っ払っていてもお腹がいっぱいでも食べたくなる。
私は許してもらえる時はカレーだけ倍増してもらいます。
本当は鍋ごといただきたいくらいですけどね。

「“コロンブスの卵”のような料理を作るのが好きなんです。どこにでも誰にでも考えられるけど、形になるまでいろいろな思いや考えが紆余曲折して作っていくのが楽しくって」と仲田さん。

そう! 仲田さんの料理ってどれも“過程”があるんです。
例えば白和え、まずはじめに豆腐に似たものって何だろう? あ、リコッタチーズだ。発酵系のチーズに合うには……、と考えを次、次と発展させて完成させていくんですって。

”おいしい”の先にある素晴らしいものに出会える

仲田さんとはかれこれ10年来のお付き合いになります。
と言うより10年経ってBOLTで再会したのが事実です。

普通に予約して訪れた私に仲田さんが、「高橋さんって恵比寿の『レスプリミタニ』にいらっしゃったことがありますよね?」と。
びっくりしました。
だってそのお店で仲田さんが私のことを覚えておられるとしたら、蘇るのはたった一度の“あの日”しかないから。

その日は友人と閉店時間までいたので、当時のシェフであった三谷青吾さんに「このままスタッフたちと呑もうよ」とお誘いいただき居座っておりました。
デザートで用意していたパリブレストがほぼ1ホール残っており、廃棄しなければならないので食べてくださいと言われ、お言葉に甘えてひとりで食べちゃったのです。
もちろんフランス料理をたくさんいただいた後なので周りは呆然。そんなヤツはかつていなかったのか、兎にも角にも仲田さんはそのたった一回会っただけの私を10年経っているのにも関わらず覚えていてくれたのです。お客の立場からすると覚えていてくれるってすごく嬉しいことですよね。

日本のレストランはお料理のレベルがすごく高いと思います。
なのでおいしいのはもはや当たり前、それでやっとゼロ地点だと言えます。
リピートしたくなるのはそこから先で、どれだけおいしいか、どれだけ居心地が良いか、さらには値段、立地、雰囲気、客層などが関わってきます。

何かにつけてBOLTに行きたくなってしまうのは、“おいしいの先”にあるものが素晴らしいから。

大好きな友人、恋人、夫婦でゆっくり話しながら過ごしたい時には絶対にオススメです。

そうそう、店名の由来にもうひとつ「ネジを締めるように常に自分たちを締める」がありましたっけ。
大丈夫、締めすぎってくらい締まってますから!

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高橋綾子

たかはし・あやこ●フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレス時代から培った〝食″へのこだわりは、舌の肥えた業界人も頼りにするレベルの高さ。年間1000を超えるという外食の日々が築き上げたおいしいもの好きが嵩じて、ついに2018年2月に東京・下北沢にてレストラン「üchï(うち)」をオープン。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。
Facebook→https://www.facebook.com/ayako.takahashi.1671

uchi→http://uchi.tokyo/

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