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『我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語』重版記念!  日産自動車サッカー部初代監督・安達二郎が50年見守り続けるクラブの航路

釜本邦茂の引退試合となった決勝でヤンマーに勝利し天皇杯初制覇!

 1983年度の天皇杯決勝、加茂の古巣であるヤンマーとの一戦が忘れられない試合だという。釜本邦茂の引退試合としても注目された試合に2-0で勝利して、日産は初制覇を成し遂げる。金田喜稔、木村和司、水沼貴史、柱谷幸一らが奏でる攻撃サッカーによる栄冠は、日本サッカーに新しい風を吹かせることにもなった。

「あれほど嬉しい瞬間はなかったですよ。私が日産サッカー部という点をつくり、加茂さんが点をつなげて太い線を引いてくれました。選手をスカウトするときでも加茂さんは颯爽とフェアレディZで駆けつけて、〝俺もいつかは乗りたいな〞と気を引くのも上手でした。日産サッカー部の歴史をつくってくれたのは、やっぱり加茂さんなんです。そして会社自体もおおらかだったとは思いますね」

 その後、日産自動車サッカー部は日本サッカーをけん引する立場になっていく。2年連続の3冠達成など黄金時代を迎え、Jリーグ開幕前年の1992年4月1日に誕生する横浜マリノスに引き継がれた。タネを蒔いて加茂につなげた安達の2年間があったからこそ、点が線となったのだ。

 日産スタジアムにある貴賓席の一角が安達の指定席である。
 Jリーグが開幕した1993年にニッサンモータースポーツインターナショナル(愛称ニスモ)の社長になってからも、ホームの試合だけはなるべく足を運んで試合を見るようにした。
 貴賓席にいてもVIPという感覚はない。スタッフの一人として眺めるようにしている。
 立ち上げの功労者だからといって、クラブ経営に口を挟んだこともない。
 ただし、単に試合を見ているわけではない。ピッチ内も、ピッチ外も。どのようにチームをつくっているか、クラブ自体の現状はどうか、どこに課題があるのか、あらゆるものに目を向けている。

「2022年までクラブがやってこれたのは、ひとえに伝統の力。加茂さんが太い線を引いてくれて、マリノスになってからはそれが面になり大きく広がりました。マリノスの特色は何といっても、日本プロサッカーにおいて、その誕生と発展、成長と進化の先陣を走ってきた〝先進性、先駆者〞ということに尽きるような気がします。この気性や意欲は、文明開化に大きな役割を果たした港町・横浜の気性そのもの。だからこそ〝横浜にはマリノスがある〞んです。でも、残念ながらまだ立体にはなっていない。横浜のファンが心を一つにして応援できる空間、互いに寄り合い、語りあえるクラブ、日産時代からの輝かしい歴史を伝承し、子や孫に語り継げる場所……そういったものが、まだ、ここにはありません。先輩として一言申し上げるとしたら、やはりクラブの〝故郷〞〝母港〞というものがなくてはならないと思っています。そうなれば横浜F・マリノスは永遠の存在になっていくのではないでしょうか。歴代社長のことも私はよく知っています。これからにも、とても期待しているんです」

 心臓に持病を抱えているためコロナ禍が始まった2020年、2021年の2シーズンは来場できなかった。日産自動車サッカー部創設50周年のメモリアルイヤーとなる2022年から、ようやく観戦を再開することができた。
 背筋をピンと伸ばして、真っ直ぐに向ける視線。〝始まりの人〞は50年を過ぎた航路の行方もじっと見守っている――。

即重版決定! 『我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語』

2022年、創立30周年を迎えた横浜F・マリノス。前身となる1972年の日産自動車サッカー部の設立からは、ちょうど50年になった。
Jリーグ創設以来、リーグ制覇5回、一度の降格もないトップクラブとして存在し続ける「伝統と革新」の理由を、選手、監督、コーチなどチームスタッフはもちろん、社長をはじめクラブスタッフまで30名を超える人物に徹底取材。「マリノスに関わる人たちの物語」を通じて描きだすノンフィクション。

Amazonなど各書店で絶賛発売中。重版分の全国書店着は2月末~3月頭頃を予定しています。デジタル版もあります!

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新刊紹介

二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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