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【村井理子さん×ジェーン・スーさん『実母と義母』刊行記念特別対談 】 「親の顔」以外の父母のことがわからない~近くて遠い家族との過去、現在、未来

介護未満の父親の生活を整える

村井 スーさんのお父さまはご健在で、数年前、荒れかかったお父さまの生活をスーさんが整えて、それからずっと健康管理もしていらっしゃいますよね。Webマガジン「マイ・フェア・ダディ!」を読んで驚きました。

スー 今も毎日、一日三食、父には食べたものをスマホで写真撮ってメールしてもらってます。その日の体重もできるだけ。で、私が栄養状態は大丈夫か、痩せていないかのチェックをしてる。あとはお金を渡してるだけです。

村井 何だかちょっと羨ましい。そういうこと、私も父とやってみたかったです。それにしても、お父さまの生活状態を見たスーさんが、「何とかせねば!」となったときの最初の動き方がとにかく見事でしたね。タスクマネジメントがスーさんならではで。

スー 私、トラブルが起こったときに、とにかく調べて、手持ちの駒で自分ができることを考えて、即座に動いて解決するってことが好きなんですよ。発情に近い欲望みたいなものすら感じる(笑)。父は間違いなく問題のある人で、もし母が生きていたら、私はきっと連絡すら取らなかったと思う。で、父が死ぬとき、ギョッとしたと思います、この人のこと何も知らない……って。母が早くに亡くなったことで、父との関係をゼロから構築するしかなくて、これに関しては「お母さんのおかげだね」と父とも言ってるんですけどね。

村井 スーさんは、お父さまとの関係を再構築できたのですね。

スー するしかなかった。でも、許してないですよ。許してないというより、信用してない。これまでのこと、いろいろ思い出すとつらくなるから思い出さないようにしてるけど、最後のところでは父親を信用できない。

村井 それでも、お父さまの健康管理をしたり、日々のタスクをこなしたりしている――。

スー それは母の介護での後悔をずっと引きずっているからじゃないかと思います。あのとき、あんなに一生懸命やったのにこんなに後悔が残るのだとしたら、いま父が死んだらもっと苦しいだろうって。いわば保身。自分のためにしてると言ったほうがいいかもしれない。

村井 わかります。私も散々いじめられたのに、義理の母をいま介護していることについて、よく「偉いですね」と言われるけど、そのたびに居心地悪い何かがあります。だって私、義理の母の変化を「書く」ために、介護しながらずっと観察してるんですもん。

スー すごくわかる。でも、そうでもしないとやってられないってことですよね。

村井 そうなんですよ。

スー つくづく、こういう仕事でよかったと思ってます、私。

村井 私も。だから、褒められると居心地悪い(笑)。

スー 村井さんは義理のお母さまを長年、介護されてるわけですけど、実のお母さまのときは介護されなかった……。「怒り」の種類が違いましたか?

村井 例えば、道を歩いていて誰かが倒れていたら「大丈夫ですか?」って駆け寄って助けますよね。義理の母はそれに似てるんです。だけど、もし道端に倒れているのが実の母だったら……当時は、見て見ぬふりしたかもしれない。すぐには助けられないほどの複雑な思いがありました。

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ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。
TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のパーソナリティとして活躍中。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『生きるとか死ぬとか父親とか』『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』『これでもいいのだ』『私がオバさんになったよ』『ひとまず上出来』『きれいになりたい気がしてきた』『おつかれ、今日の私。』『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』、のほか『女に生まれてモヤってる!』『女らしさは誰のため?』(共著)など多数。

X:@janesu112

村井理子

1970年、静岡県生まれ。翻訳家、エッセイスト。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』『ハリー、大きな幸せ』『家族』『はやく一人になりたい!』『村井さんちの生活』 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』『ブッシュ妄言録』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『ふたご母戦記』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』『義父母の介護』『エヴリシング・ワークス・アウト 訳して、書いて、楽しんで』など。主な訳書に『「ダメ女」たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖』『エデュケーション』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』『消えた冒険家』『ラストコールの殺人鬼』『射精責任』など。

무라이 리코
1970년, 시즈오카현 출생. 번역가, 에세이스트. 주요 저서로 『오빠가 죽었다』 『낯선 여자가 매일 집에 온다』 『필요 없지만 고마워: 항상 무언가에 쫓기고, 누군가를 위해 지쳐있는 우리를 구원하는 기술』 『하리, 커다란 행복』 『가족』 『빨리 혼자가 되고 싶어!』 『무라이 씨 집의 생활』 『무라이 씨 집의 꽉꽉 채운 오븐구이』 『부시 망언록』 『갱년기 장애인 줄 알았는데 중병이었던 이야기』 『책 읽고 나서 산책 가자』 『쌍둥이 엄마 분투기』 『어느 번역가의 홀린 듯한 일상』 『시부모 간병』 등이 있다. 주요 번역서로는 『요리가 자연스러워지는 쿠킹 클래스』 『어둠 속으로 사라진 골든 스테이트 킬러』 『메이드의 수첩』 『배움의 발견』 『포식자: 전 미국을 경악하게 한, 잠복하는 연쇄 살인마』 『사라진 모험가』 『라스트 콜의 살인마』 『사정 책임』 등이 있다.

X:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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