よみタイ

アイスランドの90%の女性が参加。伝説のストライキ「女性の休日」を知っていますか?【ブレイディみかこ著『シスター“フット”エンパシー』試し読み】 

10月25日に映画『女性の休日』が公開されました。これは、今からちょうど50年前、1975年10月24日にアイスランドで実際に起こった女性たちによるストライキを紹介するドキュメンタリー映画です。アイスランドの90%の女性が参加したという、前代未聞かつ伝説のストライキですが、日本ではそこまで知られていなかったのではないでしょうか。

実は6月26日に発売されたブレイディみかこさんの新刊『SISTER‟FOOT”EMPATHY』の第1話目「女たちのストライキ ーみんなでやっちゃえ!ー」に、この女性たちのストライキのエピソードが紹介されています。映画公開、そして新刊好評発売を記念して、このエッセイを無料公開します。映画とあわせてぜひ一読ください。

*初出:2022年『SPUR』4月号。単行本化にあたり加筆修正を加えています。
(構成/「よみタイ」編集部)
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女たちのストライキ ーみんなでやっちゃえ!ー

最近、日本のメディアからインタビューで女性の問題について発言を求められるたび、同じ質問をされることに気づいた。それはこういうものである。
「日本は世界ジェンダーギャップ指数ランキングで100位以下です。毎年、先進国では決まって最下位なんですけど、どうしたらこの状況を変えられるでしょうか」

四半世紀を英国で暮らしてきたわたしには、正直、日本のいまの状況はわからない。だから、おいそれと答えられる質問ではないが、日本の順位がそんなに低いなら、上位の国は何をしてきたか探ってみるのも参考になるだろう。

というわけで、アイスランドである。2022年は13年連続で世界ジェンダーギャップ指数ランキング1位。もはや独走状態と言っていい。日本の順位がふるわない理由は、「政治への参画」と「経済活動への参加と機会」の分野での順位が特に低いからだ(2021年の結果を見ても、前者が147位、後者が117位)。が、正反対に、アイスランドこの2分野が強いので総合1位をキープし続けている(前述と同年の結果で前者が1位、後者が4位)。

両国の差は何なのか? 日本はおっさんが幅を利かせている社会だからとか、いまだ家父長制文化が根強いからとか言うこともできる。だが、わたしは、アイスランドの足もとから始まるシスターフッド、すなわち、「ウィメンズ・ストライキ」の伝統に注目したい。

たとえば、アイスランドでは2018年に世界で初めて男女の賃金格差を違法とする法律ができた。この法律制定の原動力となったのも、2016年10月24日に行われたストライキだといわれる。この日、アイスランドの女性たちの多くが午後2時38分に仕事を終わらせ(男性と同じ賃金をもらっていれば女性たちはこの時間に業務を終了できる計算になる)、抗議活動を行なったのだった。

彼女たちが10月24日を選んだのは、それが伝説のアイスランドの「女たちのストライキ」が行われた日だったからだ。1975年のこの日、アイスランドの女性たちは勤労、家事、子どもの世話を行うことを放棄してストライキを決行した。なんと全国の女性の90%がストに参加したという。

映画『女性の休日』より © 2024 Other Noises and Krumma Films.
映画『女性の休日』より © 2024 Other Noises and Krumma Films.

わたしが執筆作業を行うためによく利用する小さな北欧風カフェがあり、そこの店長がアイスランド出身だ。彼女はこのときのことをよく覚えているそうで、「あの日、アイスランドの少女たちはみんなフェミニストになった」と言う。当時12歳だった彼女は、母親や叔母や祖母、近所の女性たちが一丸となって闘う姿を見てワクワクするような興奮を覚えたという。

それは当日だけの話ではなかった。ストが近づくにつれ、ストリートのさまざまな場所に女性たちが集まって話し合っている姿を目にするようになったそうだ。店長の家族の中でも議論は行われていた。彼女の祖母は工場で働いていて、ストに参加するつもりはないと頑固に言い張った。それでも、工場で自分とまったく同じ作業をしている若い男性たちの賃金が自分よりも高いことには不満を持っていた。

「何かしないと何も変わらない。あなたの孫の世代になっても、ひ孫の世代になってもこのままだったとして、それでいいと思う?」

自宅のキッチンで、母親がそう言って熱心に祖母を説得しているのを聞いたそうだ。スト当日、祖母は工場に行かず、自分の娘たちと一緒にデモに参加した。

店長の母親は当時30代で、ベーカリーで働いていた。上司の女性は50代だったが、「ストなんかしたら、社長やお客さんに申し訳ない」と当日も働くと言って聞かない。母親は仕事帰りに上司の自宅を訪ね、「働かない日の分を、最高においしいパンを開発することで取り返しましょう」と説得したそうだ。また、20代だった叔母は、スト当日、学生時代に大嫌いだった保守的な女性教師がデモに参加している姿を見て衝撃を受けていたらしい。「あの人まで参加していたのだから、とんでもないことが起きた日だった」と後々まで語っていたという。

映画『女性の休日』より © 2024 Other Noises and Krumma Films.
映画『女性の休日』より © 2024 Other Noises and Krumma Films.
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ブレイディみかこ

●ライター・コラムニスト。1996年より英国在住。2017年『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)で第16回新潮ドキュメント賞受賞。19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第2回Yahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞などを受賞。小説作品に『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』(KADOKAWA)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト ――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)などがある。近著には『地べたから考える――世界はそこだけじゃないから』(筑摩書房)。

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