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完璧な人しかフェミニストになれない世界なら息苦しいだけ。今、わたしたちに必要なシスターフッド論【ブレイディみかこさん×宇垣美里さん『SISTER“FOOT”EMPATHY』刊行記念対談/前編】

雑誌『SPUR』での連載をまとめた『SISTER“FOOT”EMPATHY』を6月26日に刊行したブレイディみかこさん。本書はこれまでブレイディさんが大切にしてきた「シスターフッド」「足もと」「エンパシー」というキーワードで編まれた39編のエンパワメント・エッセイ集です。

刊行を記念したトークイベントが、8月21日に「代官山 蔦屋書店」で開催されました。トークのお相手は、フリーアナウンサー・俳優・執筆業など多岐にわたって活躍する読書家の宇垣美里さん。イベント当日の様子を一部、ダイジェストでお届けします。

写真/山下みどり
構成/国分美由紀
ブレイディみかこさん(左)と宇垣美里さん(右)
ブレイディみかこさん(左)と宇垣美里さん(右)

根拠のない決めつけに意義を唱えただけで炎上する日本

宇垣美里(以下、宇垣) ずっとファンとして本を読んできたので、こんな機会がいただけるなんて……後でサインください!という感じなんですけれども(笑)。『SISTER“FOOT”EMPATHY』は、自分の中でまだ言葉にできていないことに気づく瞬間がたくさんあったし、アイスランドの女性たちのストライキのお話をはじめ勇気づけられたりワクワクしたり、読んでいてすごく面白かったです。

ブレイディみかこ(以下、ブレイディ) すごく嬉しいです。宇垣さんが私の本を読んでくださっていると知ったのは、ラジオ番組で『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を紹介していただいたことがきっかけで。『両手にトカレフ』では推薦文に加えて書評まで書いてくださったんですよね。今回、ストレートにシスターフッドやエンパシーについて書いたこの本をぜひ宇垣さんに読んでほしかったんです。というのも、少し前にイギリスでは考えられないようなことで議論を呼んでいたじゃないですか。

宇垣 そうでしたっけ?(笑)

ブレイディ 男性から「女性は空間認識能力が低い」と言われたときに「ソース(情報源)はどこ?」って突っ込んだというエピソードが話題になっていて。根拠のない決めつけに対して意義を唱えるのは当たり前のことなのに、どうして日本だとこんなことで炎上してしまうんだろうと。でも、ご本人は飄々としていらして、すごくいいなと思っていたんです。

宇垣 あれは実際に仲がいい友人の男性から言われて、「ソースどこ? 調べてみようか……どこにも書いてないね」みたいな感じで詰めちゃったんです。相手も「どこかで読んだけどな」ってなかなか認めてくれなかったので、テレビで「どうして男性って素直に謝ってくれないんですか?」と話したんですよね。そこで主語を大きくしてしまったのはよくなかったなと反省しています。でも、日本では「女性はおとなしいほうがいい」といった考え方がまだまだあるなと感じました。

フェミニズムにユニフォームもドレスコードもない

ブレイディ この本で「外見はいいが知性のない女性」といった意味で使われてきた「bimbo」という言葉をミソジニスト的文脈から取り返そうとするムーブメントについて書きましたが、バービーみたいな金髪ロングヘアでセクシーな格好をした女の子たちが、フェミニズム的なことを発言したり女性の主張をしたりすると、ものすごく叩かれることがあるんです。まるで「そんな格好をしているのに、政治的なことを言わないでくれ」とでもいうような感じでね。

宇垣 日本でも“女子アナ”と呼ばれる、ある種アシストする仕事に就いているというだけで「誰かをケアするのが得意なんでしょ」という目線で見てくる人はいまだにいます。私は、グラビアを含めて作品として写真を撮ってもらうことがすごく好きですし、楽しくできるものしか選んでいませんが、「外見を売って仕事しているのに、フェミニズム?」とおっしゃる方も一定数いらして。それこそ「bimbo」ですよね。私は可愛い格好が好きで、女性的なラインが出る服もすごく好き。自分が女性であることも、私自身はとても素敵なことだと思っている。でも、「そういう格好をするのに?」と言われてしまう。

ブレイディ まさに固定観念ですよね。「フェミニストは化粧しない」みたいな決めつけがある。本にも書いたけれど、フェミニズムにユニフォームもドレスコードもない。みんな好きな格好をしていいし、それこそが多様性じゃないですか。私がイギリスに住み始めた1996年に一世を風靡していたガールズ・グループ「スパイス・ガールズ」もまさにそう。聴いている音楽も着る服も趣味もバラバラに見える5人が、本当に友情だったかどうかは知らないけれど、それこそピンクのミニスカートを履いた「bimbo」みたいな人も一緒になって「ガール・パワー」と言いながら肩を抱き合う姿に、イギリスの少女たちや若い女性は慰められたんですよね。差異万歳!みたいな。

宇垣 私たちの世代はたぶんそれが「美少女戦士セーラームーン」だったと思います。格好は似ているけれど、性格は全然違うんですよ。それがすごく素敵だったし、セーラームーンの何よりもすごかったところって、女の子が、お姫様が、傷だらけになって大切なものを自分の力で守ること。まさしくガール・パワーを見て育ったので、自立することや大切なものを自分で守ることが当たり前だと思えたのは本当に恵まれていたし、ありがたいなと思います。

ブレイディ そういう影響を受けた宇垣さんが大人になった今、現実世界の、日本のシスターフッドをどう見ていますか?

宇垣 結局、いちばんの居場所は女友達だなと思っていて。例えば仕事や恋愛でゆらいだとしても戻ってくる場所。私が思う私をそのままに受け入れてくれる人。そこにジャッジが入らない人。それが私にとっての友情です。男友達もいるけれど、やっぱり女友達は「女性である」というレッテルが同じだからこそ共感できる部分があるし、彼女たちにすごく救われてきたなと思っています。
一方で、フェミニズムを語るうえで、自分でバリバリ稼いで、家事もして、消費社会のことは責めない、みたいなスタンスをすごく求められている感じがしてちょっと困惑しています。「今はちょっと休みたい」という人にも手を差し伸べたいし、そういう人のことを救うのがフェミニズムでありシスターフッドだと私は思うんですけど。

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新刊紹介

ブレイディみかこ

●ライター・コラムニスト。1996年より英国在住。2017年『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)で第16回新潮ドキュメント賞受賞。19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第2回Yahoo!ニュース|本屋大賞ノンフィクション本大賞などを受賞。小説作品に『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』(KADOKAWA)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト ――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)などがある。近著には『地べたから考える――世界はそこだけじゃないから』(筑摩書房)。

宇垣美里

うがき・みさと●1991年 兵庫県神戸市出身。2014年4月にTBSに入社し、アナウンサーとして数々の番組に出演。 2019年3月に退社後、現在はドラマやラジオ、雑誌出演のほか『週刊文春』、『女子SPA!』などで漫画・映画のコラム連載など執筆業でも活躍中。著書に『今日もマンガを読んでいる』(文藝春秋)フォトエッセイ『風をたべる』(集英社)など。TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』水曜パートナー、ニッポン放送Podcast番組「宇垣美里のスタートアップニッポン powered byオールナイトニッポン」パーソナリティを担当している。

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