2024.12.25
差別・階級の段差でうっかり転ばぬための一冊に! 祝!続々重版5刷『消費される階級』酒井順子さん特別コメント
発売から半年を経過した今、著者の酒井順子さんからいただいたコメントを紹介します。
読み逃せない一冊として、未読の方はぜひ年末年始の読書にどうぞ!
写真:馬場わかな
ダサい子に彼氏がいたときの衝撃などを綴る『下に見る人』
酒井順子さんは、高校時代に東京の女子高生を分類したエッセイを発表したのち、「負け犬/勝ち犬」「子あり/子なし」「京都/東京」「三島由紀夫/水上勉」など、「違い」「差」を比較、考察した作品を執筆し続けています。
なかでも、2012年刊行の『下に見る人』(2016年角川文庫)では、「小学校時代に級友につけたあだ名」や「ダサい子に彼氏がいたときの衝撃」などについて猛省を込めて(?)触れ、自身の「上に見たり、下に見たり」意識を、赤裸々に明かしていました。
「人が集えば必ず生まれる序列に区別、差別にいじめ。そして我々の心に芽生えるのは『上から目線』ではなく、『人を下に見たい』という欲求! 誰もが無意識に持つその心理と社会の闇を、自らの体験と差別的感情を露わにし、酒井順子が徹底的に掘り下げる」という内容説明には、『消費される階級』と重なる部分が見られます。
この書籍刊行から約10年。
世の中は、多様性、ポリティカル・コレクトネスがいきわたり、言ってはいけない、使えない言葉が一気に増えました。作家の方々も大いに戸惑いながらエッセイや小説を執筆している状況でしょう。実際、酒井さんも「以前は書いていた**や***などは書けなくなりました。しかしそれに替わる言葉もなく…」とのこと。先述の『下に見る人』のなかのいくつかの言葉は、現在では扱いが難しい一面も。
しかしながら、「陰キャ・陽キャ」「親ガチャ」などの言葉が次々に生み出されることに表れているように、差別・区別・序列意識が消え去ったわけではありません。
それらが地下に潜ったり形を変えたりした時代だからこその、差別・階級意識を掘り下げたのが『消費される階級』で、「はじめに」にはこのような文章が綴られます。
「人が二人いればすぐに上下をつけたくなる人間という生き物は今、もしかしたら本能なのかもしれないその『上下差をつけたい』という欲望を内に秘めつつ、『違いを認め合い、すべての人が横並びで生きる』という難題に挑もうとしています。実は革命以上の困難を伴うものなのかもしれないその挑戦は、これからどうなっていくのか。我々の生活の中に潜む階級の数々を見つめつつ、考えていきたいと思います。」(『消費される階級』「はじめに」一部抜粋)
『下に見る人』と類似しながらも異なるのは、「『上下差をつけたい』という欲望を内に秘めつつ、『違いを認め合い、すべての人が横並びで生きる』という難題に挑もうとしています。」という点です。だからこそ今、書かれるべき読まれるべき本が誕生したと言えるでしょう。
酒井順子さんより、あらためて本書に寄せて
「差別や階級について、最初は一冊分書けるかわからなかった」そうですが、書き始めたら「次から次へと難なく書くことが出てきた」という酒井さんから、「よみタイ」読者の皆様へメッセージをいただきました。
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人と人との間に存在する様々な「差」をなくすための努力がなされるにつれ、私たちはわずかな段差にもつまずきやすくなってきたのではないか。
……という疑問から、ポリコレ時代の新たな〝階級″について探ったエッセイです。
この本への反響の大きさに、階級・格差をなくそうとすればするほど、それらは水面下に潜って人を縛っていることを実感しました。そんな時代の、転ばぬ先の一冊に。-酒井順子
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『消費される階級』に登場した「楢山節考」は、酒井さんの最新刊『老いを読む 老いを書く』でも触れられています。今後は「小説新潮」で連載した「松本清張の女たち」の書籍化、「群像」の連載「習い事だけしていたい」など、酒井さんならではの作品や連載のほか、「よみタイ」でも近々新連載が始まる予定です。
どうぞお楽しみに!