2020.8.19
【もんでんあきこ×桜木紫乃】「我々昭和の女どもには、やっぱり男はとことんカッコつけてカッコ悪く死んでほしいという美学がある」
実はおふたりはともに北海道在住で、桜木さん原作の小説『ブルース』をもんでんさんが漫画化しているという、親友&盟友同士でも。
今回お届けするのは、桜木さんがふと書いた1篇の詞がきっかけで生まれた奇跡のコラボレーション。
そして、そこにいたるまでのあれこれを、改めておふたりが語ってくださいました。
(取材・文/よみタイ編集部)
『ブルース』でまんまと、もんちゃんを釣り上げちゃった
――桜木さんの『ブルース』は、釧路で育った6本指の男が自らの指を切り落とし、夜の世界でのし上がっていく連作短編集。この小説をもんでんさんが漫画化し(「グランドジャンプめちゃ」にて連載中)、話題を呼んでいます。
もんでんあきこさん(以下、もんでん) 先に私の『女衒夜話』を渡したんですよね。紫乃さんは好きだろうと思って「これ読んでください!」って。
桜木紫乃さん(以下、桜木) それを読んで、私たち同じところを追求しているなあと思った。我々昭和の女どもには、やっぱり「男にはとことんカッコつけて、カッコ悪く死んでほしい」という美学がある。それで私が『ブルース』を渡したの。気に入ってくれるかなと思って。
もんでん めちゃくちゃ面白くて、これは描きたい! と思った。
桜木 で、私がまんまと、もんちゃんを釣り上げた、と(笑)。
『バブルダンサー』は『痴漢日記』だった
――お互いの感性と才能に触発されつつ、交流を続けてきたお二人。『ブルース』でのタッグのみならず、なんと今回は……
桜木 頭を休めるために、よく詞を書くんです。作詞は、虫食いのパズルに言葉を当てはめて、立体化していく感覚。この作業がとても好きで、原稿を書くより心が休まるんです。
それで、“バブルダンサー”っていう言葉が、ふと降ってきたんですよね。最初は短編のタイトルになるなって思って。バブルダンサー……泡踊り……? これは吉原の話だな、と。
ねえ、『痴漢日記』って映画知ってる?
もんでん 知ってる、知ってる。
桜木 私、この『痴漢日記』シリーズが好きで、その第4弾に「尻を撫で回し続けた男」っていうのがあって。温水洋一と清水ひとみが出てるんだけど、ずっとお嬢様のふりをしてた清水ひとみがラストでタクシーに乗った途端に表情が変わって「吉原まで」って言うのがかっこよくて。だったら、好きでやってるソープ嬢がいたっていいじゃない、って。襟を正して泡で踊るという絵面がパン、パン、パンと頭に浮かんできて……たぶんその間5秒くらいだったと思います。それでその後、パッと詞に書いたの。
だから『バブルダンサー』は『痴漢日記』です(笑)。
もんでん 『痴漢日記』だったのか! だいぶ受け取り方が違ったな(笑)。
――そうして書き上げた詞を、漫画『ブルース』の担当編集者に「好きにして」と送ったという桜木さん。その編集者がたまたまギタリストでミュージシャンでもあったことから『バブルダンサー』に曲とヴォーカルがつき、さらにそのナンバーを聴いてインスパイアされた、もんでんさんが連載中の『エロスの種子』で「泡姫 bubble dancer」というタイトルで短編漫画に……。あれよあれよという間に一篇の詞の世界が広がりました。
桜木 だからね、人の手を介していくと物事はこんなにも大きくなっていくんだな、という不思議なバブルを今回味わいましたね。
もんでん まさにバブルだったんだ。
桜木 そう。編集者には、曲をつけるなら宇崎竜童の『ロックンロール・ウィドウ』のイメージでって言ったんですけど、届いたらボブ・ディランになってた(笑)。それがさらにもんちゃんのところに届いて……。
もんでん 曲を聴いて歌詞を読んだ瞬間に「あ、描けそう、ショートなら」って。最初はチンコがでかい男のイメージだったんだけど(笑)。威張りくさった男がソープの女に冷たくあしらわれるっていう。
桜木 私も詞を書いたときは突き放す女のイメージだった。男蹴飛ばす系の女。それが優しく包容力のある女になって返ってきたから不思議だなって。
もんでん 「グランドジャンプ」は青年誌で読者は男性がメインだからね。そこは私も考えますよ(笑)。
それに、男がただ女に冷たくあしらわれる話だと、彼女(ヒロインのソープ嬢)の立ち位置があまりよくわからなくなっちゃうなと思って。それで、「ソープランドで自ら働いている人ってどんな人なんだろう」っていう取材する人を立てた方が読者にも伝わりやすいかなと。
それに、彼女はただ優しい人じゃなくて、優しいふりをしている人、だからね。そこは汲んでほしいな、と。
桜木 確かに、彼女の過去が知りたいって思った。マキさんの話、これで終わりじゃないといいなあ。