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これからのメディア論、そして“老い”を前提にして50代もごきげんに仕事をするコツとは?【 佐久間宣行さんインタビュー 後編】

――最近のテレビ業界に対してや、ラジオ、YouTube、サブスク、SNSといったあらゆるメディアが群雄割拠の今の状況をどうとらえていますか?

これはもう、本当に大変な時代だと思いますね。かつてはラジオで火がついてテレビに出てブレイク、みたいな流れがありましたが、今はそれぞれのメディアが完全に分断化。ファンはそれぞれ“自分たちが好きなメディアが最上”、“応援している人が一番”だと信じている傾向が強い。だからタレントさんでも知名度が広がりにくいうえ、人気に火が付いたメディアから別のメディアへ活動の範囲を広げようと出ていくと、なぜだか人気が落ちてしまう。

特に世の中のムードも、信じているものや人がそれぞれにいて、それ以外は‟下げる”時代に突入しているので、そこでモノ作りをし続けるって、相当ハードですよ。

YouTubeでさえ、僕がチャンネルを始めた2021年からたった数年なのに状況が劇的に変化していて、完全にファンダム・推し活メディア化している。企画云々より、その集団やその人を推す流れなんです。

テレビはもう、完全に過渡期ですよね。予算が少ないから、バラエティ番組は少人数のトーク番組が主流。あと、リアルタイム視聴と、見逃し配信の両方の数字を獲得しないといけなのもあるから、ネットニュースやSNSでバズるようなことをしないと、なかなか見つけてもらえない。そうなるためには、可燃性が高い企画や耳目を惹く言動を発信するほうに舵を切っちゃうケースが多くて。あるいはファンダムが強い人をいかに獲得するかになっています。
だからこそ、「テレビメディアでしかできないことってなんだろう?」というのは、ずっと考えていますね。

YouTubeも、配信系のサブスクも、まだまだ掴みきれていないし、ここから先は正直わからないです。だって、Netflixで「トークサバイバー!」を配信した2022年の頃は、「お金払ってバラエティなんか観るのか?」という風潮だったのに、今や「DOWNTOWN +」まで! そうなると可処分時間と所得の奪い合いが起きるので視聴者の離脱するポイントが早くなる。より観る側の心理状況に合わせて作っていく時代に突入していくのかな、とも。

――それに加え、コンプライアンスはますます厳しくなる一方ですよね。

SNSの発達の影響で部分的に切り取って可視化できるようになったから、そのジャンルへの知識や理解が深くない人が目にして、非難することがめちゃくちゃ増えた。制作側や出演者がコンプライアンスに敏感になっているのは、それも大いにあると思いますよ。

このままだとアメリカみたいに、良質なものは有料配信でしか観られなくなっていく可能性もあると思います。となると無料で観られるものって、リアルタイムで意味があるものか、バイアスがかかったものになっていく。

”無料”って日本人は大好物のワードですが、今のテレビ業界には、かつてのようにそれで儲かるビジネスモデルがもう存在していない。バックにはお金を出してくれるスポンサーがいて、その人たちの息がかかったバイアスが加わるから、無料で観られるものに、公平なものを見い出すのが難しい時代になってくるかもしれません。思想も偏ってしまうので、情報を精査して取り入れる力を磨くか、あとは“良質な情報にはお金は払うものだ”ということを是認する社会になっていく必要がある気がしますね。

――それは“本当にいい作り手”が埋もれやすく、広まりにくい時代になっていくということでしょうか? 

特にオリジナル作品は、ヒットを飛ばすことが難しくなっていますね。約1200万人を動員した映画「国宝」ですが、じつは「アニプレックス」というアニメを主軸とした企画・製作会社の子会社「ミリアゴンスタジオ」が携わっているんです。親会社のアニプレックスが手掛けた「劇場版 鬼滅の刃」の収益があったからこそ「国宝」にも予算を注ぎ込めたはず。

素晴らしい作品を世に送り出してきた中堅の「アルタミラピクチャーズ」(編集部注:代表作に「ウォーターボーイズ」や「Shall we ダンス?」がある)でさえ倒産している今、ヒットを仕掛けられるのは力のある“メガ”もしくは、リスクがあってもその責任を負いやすい “個人”のどちらかになりつつあります。

中堅の製作会社は、ますます映画を観る理由を作らないと劇場に足を運んでもらえない。映画だけでなく、その他のジャンルでも同じことが言えますね。

――なるほど。仕事でゆとりができたように見せかけて、やはりいろいろ考えているんですね。最後に若い世代へのメッセージがあればお願いします。

20代、30代の自分に声をかけるとしたら、「もっと自分に自信を持ってもよかったんじゃないの?」でしょうか。僕は本来、ネガティブ思考だし、自己評価もめちゃくちゃ低い。失敗を恐れることも多かったので、大きな失敗はしていないけれど、とんでもない冒険はしてない気がする。

反対に、周囲から向こう見ずだと言われても愚直に夢を見る人もいて。こういう人がなりふり構わず挑戦した結果、特大ホームランのような奇跡を起こしたり、大成功を収めたのを知っています。めちゃくちゃな失敗も勇気がないとできないから、それができる人は年齢問わずスゴいな、と思いますね。

 あと、会社員ならば、今の時代は、組織を信じる気持ちと疑う気持ち、その両方を同じくらい持っていて欲しいなと思います。かつてのように組織に属すれば将来安泰では決してないし、一方で、疑っているだけだと、“扱いづらいヤツ”認定されて、チャンスが巡ってこなくなるので。

最近は、早いうちに独立する人も増えていますよね。特にテレビ業界では、一人でもクオリティを担保できる技量を持っていたり、人との違いが出せるような企画が得意なら独立をすすめますが、動画メディアは関わるスタッフの数や制作費が想像以上に大きい。僕の場合は、会社員時代にある程度仕事を確立し、そこにコラボレーションしたいという企業が現れたからYouTubeで番組を作ることができましたが、立ち行かなくなる人も少なくない。
一方で、Podcastなど音声メディアは一人でもできますし、挑戦しやすいかもしれません。

――2024年のradikoで聴かれたランキングでは、「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」は10代~40代、それぞれの世代の男性でトップ10入りしています。佐久間さんのコンテンツは同世代からの人気も非常に高いですよね。

ありがたいですよね。閉塞感があってなんだか生きづらい世の中だし、社会制度も大いに不安。苦しそうな人、めちゃくちゃ多いなって思います。
だけど、潮目は変わってきている感じがするんですよ。だからたとえ「うまくいかないな」「会社で失敗しちゃったな」という人でも、人生を充実させたり、楽しくするチャンスはあると思います。大抵の人はどこにタイミングやチャンスがあるんだ!? と外の世界の潮目ばかり注視しがちですが、そうではなくて、まずは自分の内面を見極めることが大切だと思います。

何が好きで、何が得意で、どんなカードを持っているのか? それを見つめ直さないまま潮目だけ狙っているとあらぬ方向へ流されてしまいがち。例えば金融リテラシーが低いまま投資話に乗ったりとか……。お互い、気をつけましょう。

――若い頃よりは体力が衰えやすい50代。考え方や生き方にも変化がありそうですよね。

20代で武器を見つめて30代で磨き、40代で使って、50代ではその中から使えるものと、そうでないものをさらに精査する。プライドを含めて不要なものは潔く捨て、少数精鋭の手持ちの武器を大事にしたり、経験から得た知見を次の成長分野にどうつなげていくかが50代の仕事術のポイントになりそうです。

一方で、好きな気持ちはあるし、興味はあるけれど、知見が足りないというケースもあるでしょう。ならば一念発起して勉強してみようと謙虚に思えるかどうかも、これからの人生を上向きにするエッセンスだと思います。

 内省し、心の声に耳を傾け、ごきげんでいられる選択を重ねながら、人生のアセスメント作業をしていくのは大事ですよね。いよいよ50代……僕を含めて、何が起きるかわからないので、後悔しないよう1日1日、ごきげんに生きられたらいいですよね。

完 

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¥1,540(税込)/集英社
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試し読み その1 「序章 ごきげんの正体」
試し読み その2 「2章 ネガティブを飼い慣らそう」から一部抜粋
試し読み その3 「仕事のモチベーションが低い私ってダメ人間ですか……?」キャリア悩みに明朗回答!
試し読み その4 「自己紹介が昔から苦手です……」新生活での‟あるある悩み”に明朗回答! 

テレビプロデューサーとして地上波番組や配信コンテンツを数多くヒットさせ、さらにラジオパーソナリティにバラエティ番組MCと、メディアのジャンルを超えて活躍する著者。
日本のエンタメ界を牽引する著者自身も実は、元来のネガティブ思考、自分の弱さに悩み、不安を抱えながら生きてきた。だからこそ磨きあげられた「自分自身をごきげんにする技術」を、本書では余すことなく公開!

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佐久間宣行

佐久間宣行(さくま・のぶゆき) テレビプロデューサー、ディレクター、演出家、ラジオパーソナリティ、作家。「ゴッドタン」「トークサバイバー!1〜3」「インシデンツ1・2」「LIGHTHOUSE」などのテレビ番組、配信作品を手がける。「オールナイトニッポン0(ZERO)」の最年長パーソナリティの他、バラエティ番組のMCとしても活躍。『佐久間宣行のずるい仕事術 ――僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』は20万部を突破。『その悩み、佐久間さんに聞いてみよう』(ダイヤモンド社)も好評発売中。YouTube チャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」は登録者数242万人を突破(2024 年12月現在)。「BSノブロック〜新橋ヘロヘロ団〜」も人気。

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