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中高年だって、夢を見るし恋もする 『さいごの恋』刊行記念 野原広子さん特別インタビュー

ロングセラー『妻が口をきいてくれません』や話題作『今朝もあの子の夢を見た』を経て、野原広子さんの最新作『さいごの恋』が、発売されます。
「おかっぱ眼鏡」姿の主人公、西村清美は独身の46歳。マッチングアプリを通じてやっとできた恋人との関係に不穏な影があらわれたところで連載は終了しました。描き下ろしを加えた待望の書籍刊行を記念し、野原さんにお話を伺いました。

構成/ノンフィクション編集部

同年代の方に「がんばれ」でもなく、ただ「うん。そうだよね」

――家族、夫婦、ママ友など、ままならない人間関係を描くことが多かった野原さんが、新境地ともいえる中高年の恋愛をテーマとした『さいごの恋』を描くことを思い立ったきっかけを教えてください。

数年前から更年期の症状に悩まされまして、ついにもう限界!というところまで来てしまったんです。3年間の休業宣言をさせていただいたんですけど、実際に仕事を休むと、本当に誰とも関わりがなくて、わずかにでも仕事をした方がいいかな?と、リハビリのような気持ちとペースで描くことになったのが『さいごの恋』です。
これまでは、家庭や女性が抱えるもやもやとした思いをテーマとして描くことが多かったのですが、今回は更年期で心身共にマイナスの状態だったので、希望が見える明るいものを書きたいと思ったんです。
中高年の恋をテーマにしたきっかけは、いつも通っているマッサージのセラピストさんの言葉でした。施術中にホットフラッシュで大量に汗が出てしまって、セラピストさんにお詫びしたところ、「野原さんと同年代の方は同じような方が多いですよ。気にしないでください」と言っていただいて。「中には涙を流される方もいらっしゃいます」と。
私もそうなんですが、施術で気が緩むためか、体を預けている安心感からか、セラピストさんにはつい悩みなどを打ち明けてしまったりなど、心をオープンにしてしまいがちなんですけど、私と同年代のお客様の中には体調面のことだけではなく、これまでの人生を振り返って「これでよかったのだろうか」と、涙と共に吐露される方も多いということでした。
その中には「結婚しておけばよかった。子供を産んでおけばよかった」「恋をしておけばよかった」という方もいるということを聞いて。
年齢を重ねることによって起きる様々な変化に戸惑っているのは私だけじゃないんだと。ここで涙する同年代の方に「がんばれ」でもなく、ただ「うん。そうだよね」と、頷いてあげるような話を描きたいと思ったのが『さいごの恋』を描くきっかけでした。

主人公の西村清美は46歳。一歳上の佐和子先輩と更年期の症状、ホットフラッシュについて語り合う…
主人公の西村清美は46歳。一歳上の佐和子先輩と更年期の症状、ホットフラッシュについて語り合う…

老いていくことで起きる変化に準備できていなくて

――野原さんが少女時代や若い頃にいだいていた中高年のイメージとはどのようなものでしたか。

特に女性に対しては、とても頑丈なものだと思っていました。
どんな出来事に対しても揺るがない、強い母親のようなたくましいイメージでした。

――そのイメージと、今、実感する違い、あるいは想定通りだったこととは。

実際に大人になってみると、意外と子どもの頃とたいして変わってないような気がします。ただ経験値は上がっているので、オロオロしたところで物事はそうそう変わらないとか、その辺りは想像していた通りの大人としての揺るぎなさは身につけているのかな?とは思います。
ただ、更年期については私は「こんなはずじゃなかった!」というのが大きくて。
なんの根拠もないのですが、自分は更年期症状は軽いだろうと思い込んでいて。蓋を開けてみれば、周りの誰よりも更年期症状に振り回されていたように思います。『さいごの恋』の中にもありますが、死がよぎった出来事も何度かあり、人生において心残りなことがふわっーっと頭に浮かんで、自分ってそんなことを思ってたんだ…と確認できたこともありました。
物理的なことは準備できても、老いていくことで起きる変化に準備できていなくて、「そんなはずはない…」と、なかなか受け入れることができなかったように思います。

買い物中に急に体調が悪くなった清美、人生最大のピンチ!?
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新刊紹介

野原広子

のはら・ひろこ●イラストレーター。作品に『離婚してもいいですか?』『離婚してもいいですか? 翔子の場合』『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』『娘が学校に行きません 親子で迷った198日間』『ママ、今日からパートに出ます! 15年ぶりの再就職コミックエッセイ』『消えたママ友』『赤い隣人』(以上すべてKADOKAWA)『お仕事はじめました!』(主婦と生活社)『人生最大の失敗』(オーバーラップ)『今朝もあの子の夢を見た』などがある。
2021年『妻が口をきいてくれません』『消えたママ友』2作により、第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞。

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