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名門中の名門、灘中学校の国語入試問題に採用! 村井理子さんのエッセイを試し読み

 ということで、最近のわが家の食卓は、週の半分がミールキット(食材が下ごしらえをした状態で届き、仕上げ作業だけでメニューが完成するよう工夫されたキット)、そして残りの半分が究極にシンプルなメニューで構成されている。シンプルなメニューがどんなものかというと、新米がとても美味しい時期だから、塩むすびである。炊きたてのご飯を、少し強めののり塩で握って、パリパリの海苔を巻く。それだけだ。それだけなのになんと、「うまい!」という声が上がるではないか。味噌汁は、良い出汁パックを使って作れば、卵を溶いて葱をぱらりと入れるだけで、「うわあ、美味しい」となる。ゆで卵をマヨネーズのチューブ と一緒に、ドン! とテーブルの上に出すだけで食卓が盛り上がる。じゃがいもをオーブンに三十分ほど放り込み、バターと塩を添えて、こちらもドン! と出すだけで、もうそ れでいいのである。なぜ今までそうしなかったのか。新米と塩とマヨネーズ。この三つが あれば勝てる。まんぷく三銃士と呼びたい。素材が良ければ当然勝率はアップする(これ、とても重要)。
 そしてもちろん、自分が本当に好きなメニューもどんどん作る。自分のために作る。バターを溶かしたフライパンに卵を流して作るスクランブルエッグとか、長芋のステーキだとか、甘くて大きなお揚げが入ったきつねうどんとか、そんなものである。
 考えに考え、勝手に傷つき、ぐるりと回って私は再びスタートラインに立つことができた。料理と向き合う日々は続いている。

 今回読んだのは、あきこによる『寮母あきこのガツンごはん』だ。インスタフォロワー十四万人という、驚きのパワフル寮母あきこさんのメニューはとにかくカラフルだ。造船関係会社の寮母さんらしく、ガタイのよい社員のみなさんのために作る、パワフルでガツンなメニューだが、私には、とても優しい料理に見えた。写真がとにかく多い一冊で、料理本というよりは、食欲を刺激する、楽しい一冊だと言えると思う。学生のためにお弁当を作っている人には大いに参考になるのではないだろうか。最近食が細くなり、じわじわと迫り来る老いを意識している私が、「今すぐ全部食べたい。この寮に住みたい」と思ったほどなので、きっと若い人たちには大歓迎されるだろう。これは絶対にうまいねと思わせる魅力がある。キャラ弁のセンスが最高だ。

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新刊紹介

村井理子

1970年、静岡県生まれ。翻訳家、エッセイスト。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』『ハリー、大きな幸せ』『家族』『はやく一人になりたい!』『村井さんちの生活』 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』『ブッシュ妄言録』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『ふたご母戦記』など。主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖』『エデュケーション』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』『消えた冒険家』『射精責任』など。

X:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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