2023.12.27
学歴にこだわる陰キャはエモ系界隈に逆襲できるのか?【凹沢みなみ×佐川恭一 対談】
学歴が作り出す無敵のヒエラルキー
凹沢 佐川さんは今「学歴狂の詩」を連載してますよね。これは小説というよりエッセイで、ご自身の受験生時代のエピソードがメインです。この作品にはこれまで私が出会ったことのない変わった人たちのことが書かれていて、こんな世界があったんだ……っていつも勉強させてもらっています。学歴至上主義の高校生はDQNや不良とは当然違うけれど、ある種、似たメンタリティーも持つ生き物なんですね。
佐川 そうですね。偏差値や成績の順位でヒエラルキーが決まるので、そこではイケメンや喧嘩の強そうな奴よりも、ひょろひょろでも勉強ができる人間が偉いんです。強さの指標が違うだけで、その上下関係って結構ヤンキー的だと思うんですよね。テストで負けるのってケンカで負けるようなもんですから。あと、高校時代になんとなく決まったヒエラルキーがまだ残ってる感じもありますね。
凹沢 あの価値観がずっと続いてるんですか(笑)。
佐川 なんとなくですけど(笑)。例えば大人になると年収に結構な差が出るじゃないですか。同級生には医者や弁護士、官僚から年収50万くらいのフリーターまでいまして、僕も当然下の方で、たぶん生活には歴然とした格差があります。でも学歴至上主義の世界では、収入や職業が最重要ではないんです。例えばそのフリーターが東大卒で、弁護士が同志社卒だとしたら、前者の方も普通に戦える感じというか。年収とか人生的に負けてても完全敗北って感じがしない。何というか、大企業に入ってても辞めたら肩書きは消えますが、学歴は残るじゃないですか。だんだんおかしなことを言ってる気がしてきましたけど(笑)。社会に出てどれだけボコボコにされたとしても、「まあ、学歴は勝ってるしな」って無意識的な余裕が生まれるっていうのはあると思いますね。
凹沢 「学歴は勝ってるしな」みたいなところにキュンとします(笑)。
佐川 そこキュンとします!?(笑)。多分リアルに見たらダサいですよ。例えばめちゃくちゃ本が売れてる作家がいるとして、出身大学を確認してこっちが勝ってたら「ふーん(笑)」みたいなことですよ。客観的に考えたらヤバい姿ですけど、まあ進学校出身者が一定数患う不治の病だと思います。
凹沢 学歴が全ての世界、いいなぁ(笑)。「学歴狂の詩」には個性的な人物もたくさん出てきますね。私は第4回に登場した伝説の英語教師の宮坂がドツボでした。授業中に繰り出される言葉が全部パワーワードで(笑)。
佐川 宮坂はやばいですよ。今でも受験界ですごく有名で、カリスマとして崇められてますね。当時のセンター模試で180点以下を取ったら、「お前らはゲジゲジや!」とかほんとに叫んでましたからね。まあ予備校でもそのぐらいのことは言ってるので、動画調べたらすぐ出てきちゃいますけど(笑)。連載でも書きましたけど、京大志望の生徒に英作文を板書させたとき、宮坂が突然、書かれた英文を豚みたいにフガフガ嗅いで、「神戸大学の臭いがする!!!!!」って大声で叫んだんです。あのときが人生で一番笑ったかもしれません(笑)。
凹沢 それでも自分について来れば絶対に受かると思わせる先生なんですよね。
佐川 それはそうでしたね。やっぱり、進学校の生徒は先生のことを舐めがちなんです。先生が自分の志望校よりも下の大学卒で授業もイマイチだったりすると、あんたろくな大学受かってへんやん!みたいな態度になってきますから。その点、宮坂は京大卒だし授業も面白くてわかりやすかったので、みんなちゃんと言うことを聞いてました。
凹沢 先生に対して反抗的な態度を取るのはどこの高校でもあると思うんですけど、その取り方が違うんですよね。暴力じゃなくて、舐める。
佐川 そうなんですよね。先生より生徒の方が賢いみたいなケースも出てきますから。例えば、第2話に濱慎平って天才同級生の話を書きましたけど、彼の答案は先生にもわからないわけですよ。濱が数学の難解な証明問題の解答を示したんですけど、先生も生徒もぽかんとしてて。だんだん、数学が得意な生徒から順に「わかったぞ」「これがこうなんや」みたいになってきたんですけど、先生だけ「濱、どういうことだ? わかんないぞ」ってずっと悩んでる。その時は結局、授業時間が終わっても先生は理解できてませんでした。「先生よりみんなの方が賢いのかもしれないなぁ」って言いながら肩を落として出て行っちゃって。
凹沢 切ないですね(笑)。
佐川 あれはめっちゃかわいそうでした。やっぱりトップクラスの進学校で教える先生は大変だと思います。すごいレベルの生徒がゴロゴロいるんで。灘とか開成だったらこの比じゃないでしょうね。
凹沢 佐川さんの通っていたR高の恋愛事情はどうでした?
佐川 うちのクラスは52人いたんですけど、そのうち彼女がいたのは二人だけだったと思います。高校では恋愛の浮ついた話はほとんどありませんでした。ただ、僕が通ってた塾では色恋沙汰が激しかったですね。その塾は駿台模試の偏差値が一定以上だと、タダで入れたんです。僕も入塾して自習室だけ使ってたんですけど、そこにめっちゃかわいい女の子が一人いました。のちに僕はその子をモデルに『サークルクラッシャー麻紀』を書きましたが、通ってた塾は彼女にかなり荒らされてましたね(笑)。誰とでも仲良くできる女の子だから、僕もその子とだけは喋れてたんですが、そうすると周りからの嫉妬がものすごい。「あのかわいい子誰やねん、佐川!」みたいな(笑)。それくらい女の子と話す機会はありませんでした。
凹沢 少女漫画だと「男子高校生たちが部活の合宿中に温泉に入りながら恋バナする」みたいなシーンがよく描かれたりしますけど、そういうのもなくて?
佐川 いやー、なかったですね。というか、好きになる対象の女の子に出会えませんでしたね。文化祭が数少ない女の子との接点だったりするんですけど、僕らは勉強がしたいからそもそもやる気がないんです。だから出し物をするにしても、準備に時間がかからないやつにしてて。一個覚えてる企画は、お客さんに心理学的なアンケートを書いてもらって、その人のパーソナリティをグラフで表すみたいなやつ。その時にお客さんで可愛い女の子が来たりもしたんですけど、ビビっちゃって押し付け合いになってました。俺あんな可愛い子無理や、絶対喋れへん、お前が相手してくれ、みたいな感じで(笑)。そんな状態なので、恋愛に発展するところまでいけないんですよ。
凹沢 これはまた面白いネタを拾ってしまった(笑)。