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女性用風俗店のセラピストに最も必要な能力とは? 【対談】菅野久美子×槙島蒼司 

女風のセラピストに一番必要な能力は「言葉の読解力」

菅野 初めてのお客さんって、どういう目的か本人もはっきり決めかねていたりすることもあるじゃないですか。性的なサービスも、受けようかどうしようか迷っていたりとか。

槙島 そのお客様が何を求めているのかは、最初はわからないです。青春なのか、性的なものなのか、それよりもっと別の何かなのか。話していく中で、実は性的なものがこの人にとっては不可欠なんだなとか、どちらかというとそれはオプション扱いの考えの方なんだなとか。精神的なところで、友達みたいに、わかってほしいという思いが強い方とか、彼氏みたいに、恋愛的なかけひきを楽しみたい方なんだなとか。そういう、その方の欲望を一緒に見つけてあげることが大切なのかなと思います。
そこまでの関係に持っていくのってどうしても言葉の読解力が必要になってくるんですよね。

菅野 なるほど。表面上は、いや、私はそんなことは求めてないっていうふうな装いをしがちな人もいるじゃないですか。その見極めって、ものすごく難しい気がする。

槙島 もちろん、最終的な落としどころっていうのは、性的なサービスありきなんです。女性用風俗っていう名前なので。ただ、全員が全員それを求めているわけではないので、例えば会話の中でのスキンシップ、その中でどの程度相手が許容するかっていうのを見定めるっていうことのほうが大切なんですよ。だから、「私、別にそんなやる気ないですよ」っていう形で来られた方でも、結果的に一緒にいて楽しいと思ってくださって、話す中で一緒に寝たいなとか、今日はもうちょっと触れられてみたいなとか思ってくれてるなっていうの、こっちも読み解かなきゃいけないし、それがわかったら、そこにちゃんと合わせていくっていう能力がないと。

菅野 言葉はもちろん大切だと思うのですが、女風では、言葉を超えたところにある願望も受け止める必要があるのかな、と。言葉の裏には色々あるから。まさに、ノンバーバルの世界。

槙島 真意なのか真意じゃないのか。でも、時として、わからないふりをしてあげなきゃいけないとか。

菅野 それは、例えばどういうことですか。

槙島 例えば、「大丈夫」は本当は大丈夫じゃないってよく言うじゃないですか。でも、この「大丈夫」は、今言葉で答えてあげるよりも、後で、この状況をうまく抑えてから大丈夫にしてあげようとか、そういうような形で持っていくんですよね。
「好きじゃない」って言っても実は好きだっていうのは感覚的にわかるじゃないですか。でもそこをちゃんと、好きじゃないって言ってる理由はなんでなんだろうっていうのを考えてあげるっていうところが、この仕事に、昨今は必要なものになってきた。

菅野 わかる。本当はめちゃくちゃ好きなのに、「好きじゃない」って、言っちゃうときあるんですよ。お聞きしていると、セラピストってつくづく、高度な読解力が要求されるお仕事だなと実感させられます。
確かにすぐに言葉で答えてもらうのが、正解というわけではないシチュエーションもある。でも、どちらにせよ、限られた時間でもそこまで自分のことを真剣に考えてもらったり見てもらえるのは、きっとそれだけで嬉しいんですよね。根本的には、そこなのかな、と。そう考えると、女風は確かに風俗という、性を売りにしてるけど、決して性だけではない、もっと他の「何か」を満たすお仕事なんだな、と思えてくるんですよ。特にgreedさんではデート専門のセラピストがいらっしゃって、業界でも画期的な取り組みをされていると思ったんですけど。

槙島 やはりどうしても性的なことをしたくないっていう、もう100パーセント拒否する方も中にはいらっしゃるんですよ。そういう方は何がしたいかって、やっぱり一人じゃ行けない場所に一緒に行きたいとか、一人で見に行きたいけど、誰かと一緒に見に行って感動を分かち合いたいとか、そういう方。

菅野 それもすごく納得なんですよね。私も体験して思ったのですが、逆にデートだけだと、性的な落としどころがないぶん、難しいんじゃないかって気もします。デートだと色々不測の事態が起きることもありますし、そんな時のとっさの対応能力とかが試されるというか、あと、世界観の演出も要求されそうです。

槙島 それがうまいのは、今、greedに在籍している黒須レイっていうセラピストなんですけど、本当に漫画からそのまま出てきたみたいなセリフを言えるタイプの人間なんですね。彼の場合、最初から求められる形が圧倒的にデート利用だったんですよね。性感を求めての予約っていうのは、ほぼなかったんです。だったらデートに特化して、うちで初めてそういうスタイルを確立してみようっていうことになって、彼はそのまま成功していった感じです。

菅野 黒須さんはルックスもオーラも、この業界でも別格という表現が相応しい、まさにアイドルというか、漫画の中から出てきた王子様みたいな方ですよね。存在自体がキラキラと輝いていらっしゃると表現すればいいのか。こういったデート専門の方は客層も違ったりするんですか。

槙島 客層自体は同じなんですよ。ただ、使いどころなんでしょうね。例えば性的なことはこのセラピスト、デートはレイとしたい、っていうような棲み分けをする方が増えました。

菅野 じゃあ、一人で複数指名するっていう関係。

槙島 もちろん、レイ単独でって方もいますけど、二人を使い分けるっていう方も中にはいます。

菅野 なるほど。それを考えると、女風ってすごい自由というか、使い方が幅広いというか。よく考えたら、女性側もたとえ同じお店でも、その時の気分や目的に応じてセラピストを使い分けたりすることができるわけですよね。
ホストクラブは、一般的には一つのお店で何人も指名したり、指名する人を途中で変えるのはNGだと聞くのですが、女風はそうじゃない。

槙島 そうですね。女風は、そこはあまり制約がないですね。

明日公開予定の後編では、ホストクラブと女風の違い、優秀なセラピストを見分けるポイント、お客様の「沼」問題などについてお話を伺います。お楽しみに!

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新刊紹介

菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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