よみタイ

女性用風俗店のセラピストに最も必要な能力とは? 【対談】菅野久美子×槙島蒼司 

ノンフィクション作家の菅野久美子さんのよみタイでの連載が、電子書籍『私たちは癒されたい 「女風」に通う女たち』として配信開始されました。
本書の巻末に収録した、女性用風俗店「greed」代表兼現役セラピストである槙島蒼司さんとの対談の一部を特別公開します。
前編となる今回は、女性たちの利用動機、セラピストに必要な能力について伺いました。

(構成/よみタイ編集部 撮影/中川英樹)

「セックスレスの主婦」という客層から見えたこと

槙島蒼司まきしまそうじ(以降、槙島) 僕がセラピストを始めた2020年頃っていうのは、お客様って主婦の方がほとんどだったんです。

菅野久美子(以降、菅野) なるほど。そういった主婦の方の利用目的って一般的にはいわゆる、セックスレスの解消、と思われがちですが、実際にはどうですか。

槙島 僕も最初はそれが第一目的というか、そのことだけが存在する仕事っていうイメージだったんですけど、どうもそれだけじゃないなと、自分がセラピストとして女性と接する中で気づいていって。菅野さんのご自身の体験を書いた回にもあったと思うんですけど、「青春」っていうキーワード、これが一つ、大きく引っかかってきたんです。

菅野 あぁ、めちゃくちゃよくわかる。青春を追体験したいっていう。

槙島 自分は早くに結婚して子育てして、恋愛ってそんなにしてこなかった、という方が多かったんですね。何もないまま歳を取ってしまったという、後悔みたいなものを抱えていらっしゃる。風俗という業態ですから、そこに性的なサービスはついてくるんですけど、必ずしも第一にそれを目的として来られている方は多くないってことに、徐々に気づいていきました。 

菅野 私も、この本の最後に自分で体験してみて、まさにその青春を感じたんです。私が女風に求めていたのは、青春時代や幼少期に立ち返って、そこでずっと置き去りにしていたものを回収していく作業なんだな、と。まずそこが満たされないと、性欲までたどり着かないんですよね。あの頃手に入らなかったものを取り戻したいっていう気持ちがすごく大きいことに気づきました。だから、そんな私の複雑な感情と向き合ってくださったセラピストさんには、すごく感謝しているんですよね。

槙島蒼司 まきしま・そうじ  女性用風俗店greed代表。東京都出身。営業職を経て、セラピストの道へ。趣味は仕事。
槙島蒼司 まきしま・そうじ  女性用風俗店greed代表。東京都出身。営業職を経て、セラピストの道へ。趣味は仕事。

槙島 僕はセラピスト歴は3年目なんですけど、ありがたいことに固定のお客様もついて、ある程度知名度みたいなものが出てくる。そうすると、自分のキャラクターをどう演出するか、見た目を含めた商品としてどう発信していくかというブランディングの面を重視するようになってくるんですよね。菅野さんの書かれた文章を読んでいて、すごくノスタルジックな気持ちになれたし、女性が何を求めているのか、改めて初心に帰れたというか、気づかされる部分がありました。
初期の頃の単発的なサービスから、青春を追体験しながら、そこから体の関係に発展していく、という中長期的なお付き合いのモデルに切り替えたことが、僕がセラピストとして発展していけたきっかけでもありましたし。

菅野 なるほど。最近ではSNSなどを通じて、ユーザー同士の交流は増えていますよね。私もよくユーザーさん同士の女子会に参加したりするんです。ただ、やっぱり他のお客さんがどんな利用目的で利用されているかは、まだまだ見えづらい世界だと思うんです。槙島さんの実感として、最初から性感ありきのお客さんって、実はそんなに多くはないんですか。

槙島 セラピストの売り方によって異なってくると思うんですけど、ここが売りです、っていうカラーを出している人には、その需要がある人が集まりますよね。テクニック売りなら、それを求めている女性が来るだろうし。
僕が始めた頃は、セラピストの数自体少ないから、SMか通常プレイかくらいのカテゴライズしかなかったんです。自分は特別、性的なサービスに自信があったわけでもないし、エスコートがうまいわけでもない。何を売りにしていけばいいのか、色々考えていく中で、彼氏じゃないけど、彼氏みたいな接し方、というのを目指したんですよね。それってちょっとドギマギするじゃないですか。

菅野 いきなり彼氏みたいな接し方をされると、確かにドキドキしますよね。私も最初は、頭がバグりましたもん(笑)。セラピストによって相性はあると感じましたが、ハマると楽しい。その一方で、純粋に性的快楽を追求したいという目的の女性もいらして、同じ女風といえど、需要が全く変わるのが、この業界の多様なところですよね。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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