2022.10.22
「身近な人と死について話すきっかけにしてもらえたら」。看護師で漫画家の明さんが新刊 『いのちの教室』で伝えたかったこと
「かわいそう」と思うのは間違い
――実際に出会った患者さんとの実体験を、作品として描く大変さもあったのでは?
もちろんプライバシーに関わることなので、匿名性を出すために、事例やニュアンスを変えたりといった工夫はしました。でもそれよりも、実際に出会った人や出来事に対して、その時自分がどう感じて何を考えたかを描くことを意識しました。「こんなこともあったな」とか「あんな患者さんもいたな」とか、いろんなことをどんどん思い出す有意義な時間でもありました。
――今作には登場しないけれど、思い出して印象的だった患者さんはいますか。
体内で栄養素の形成が難しい若い女性がいました。本当に華奢な体にたくさん点滴を刺して、大丈夫かな、かわいそうだな、と思っていたんです。でも、か細い腕に点滴を刺す彼女が、痛みに耐えて、しっかり病気を乗り越えて社会に帰っていく姿を見て、人はみんなそれぞれの状況で精一杯生きているのだから、それに対して「かわいそう」とか思うのは間違っていると気づいて。人に対する考え方が変わった出会いでした。
――ファンや身近な人たちからは、本作についてどのような反応がありましたか。
「自分と相手の考えは違う、自分が良かれと思ってやっていることが、必ずしも相手に喜ばれることではないと気づけた」という声をもらえた時は、描いてよかったと思いました。
――ウェブ連載を単行本にまとめるにあたり、苦労されたことや工夫されたことはありますか。
最終話を入れるかどうか悩みました。何かがはっきり解決するようなわかりやすい終わり方でも、ハッピーエンドの終わり方でもないので、後味が悪く感じる読者の方もいると思いますし。編集さんともこの終わり方で良いのかという話は何度かしました。でも、実はこの最終13話の祖父のエピソードが、1話を描き始めたきっかけでつながっているので、やっぱり自分の中で残した方がいいな、と。
この最終話で描いている私の素直で複雑な感情こそが、死の難しさを表しているとも思うので、その先に何を考えるかは読者のみなさんに委ねたいと思っています。