2021.8.31
真夜中の高原で体験した出来事
三か月前、高校のオリエンテーション旅行で東北地方のとある高原を訪れました。
これから僕が伝えるのは、その宿泊所で体験した出来事です。
旅行二日目の夜、僕と同室の友人三人とが、ちょっとした冒険心を起こしました。夜中にこっそり部屋を抜け出し、宿泊所の屋上へと侵入したのです。
なだらかな山や国有林が続く、見晴らしのいい場所でした。僕たちはどこまでも広い満天の星を眺めながら、たわいない会話をあれこれと交わしていました。
「なんだ、あれ」
しばらくして、手すりにもたれかかっていた友人が、そんな声をあげました。彼の指さす方、数十メートルほど離れた原っぱを見やると、なにやら赤い光が瞬いています。
すっかり闇に目が慣れていた僕たちには、それが焚き火だとわかりました。
「キャンプファイヤーでもしてるのか? こんな夜中に?」
さらに炎の周りを、五、六人ほどの人影がぐるぐる回っているのが見て取れます。はじめは遠近感がうまくつかめなかったのですが、次第に、その人々のサイズがおかしいような気がしてきました。
明らかに背が小さいのです。
せいぜい小学校低学年、ひょっとしたら未就学児くらいの身長しかありません。もちろん、ボーイスカウトなどの夏キャンプが行われていてもおかしくはないでしょう。しかし小さい子たちだけで夜更けに火を焚くなど、いくらなんでも不自然だし、危険な行為です。
これは大人に知らせた方がいいのではないか。
僕たちが顔を見合わせていると、その方向から、甲高い音が響いてきました。小さな人影が声を合わせ、呪文のようなものを唱えています。
ウウフォアウフホイー……ユウウォアフウウホイイ……
なんと言っているのかは、いっさい聞き取れません。そんな音だったような気がしただけです。とにかく、静まり返った高原に響きわたる奇妙な喚声を、僕らは声もたてず、じっと聞いていました。
「おい!」突然、友人の一人が叫び声を上げました。彼の顔がまっすぐ上を向いていたので、つられて僕も空を見上げます。
一瞬、自分の頭がおかしくなったのかと思いました。
夜空にぽっかり、大きな穴が空いていたのです。
その部分だけ星一つない、黒くて丸い穴が。
まっ黒い楕円は、みるみる大きくなっていき、満天の星が全て消えてしまいました。
そこで僕は気づきました。空で穴が広がっているのではなく、巨大な黒い物体が、こちらに近づいてきているのだ、と。
目の前が闇に包まれたところで、ぷつり、と記憶は途絶えました。