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誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
めくるたび、どんどん怖くなる。 『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。 1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの

 恥ずかしい話ですが、中学生の時は、いつもトイレに入り浸ってました。
 校舎のいちばん端っこにあるトイレです。
 なぜかって、誰とも話さなくてすむから。
 
 別にイジめられてた訳じゃありません。ただ休み時間に同じクラスの奴らと話すのが面倒くさかっただけです。とにかく、授業の合間は無理でも、昼休みになると必ず行ってましたねえ。
 うちの学校って変な改築をしていたので、端っこの方は美術室以外ほとんど利用されなかったんです。つまり、昼休みは誰も来ない場所。
 昼休みのたび、そこのトイレの大きい方に入って、便座の上で弁当を食べて、そのまま本を読んだりして、五限目までを過ごしてました。あの頃はいつも、毎日。
 でもその日だけ、やけに眠かったんですよ。
 登校時からなんか頭がボンヤリしていて、授業も頭に入らず。いつもの個室に入って弁当を食べかけたところで、すっかり眠っちゃったんですね。

 キャハハハハハハ
 
 思わず飛び起きました。いきなりドアの向こうで甲高い笑い声が響いたんです。
 何だ……? と固まっていると、個室の外で、ボソボソしたおしゃべりが聞こえてきます。内容はほぼ聞きとれませんでしたが、全身に冷や汗がドバッと噴き出しました。
 それ、女子の声だったんです。しかも二人。
 うわうわ、ぼうっとしすぎて女子便所に入っちゃったのかよ。これがバレたら、とんでもないことになる。しかし運が悪すぎるぞ。うっかり女子便所に入ったとしても、こんなところ、いつもなら誰も来ないはずなのに、なんで今日に限って……。
 早く出て行ってくれ──そう願いつつ、息をひそめました。
 でも女子たちの声はやむことなく続いて、いっこうに話が終わる気配がありません。

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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