2021.7.6
クラスメイトの机に置かれた手紙
僕がその手紙を拾ったのは、中間テスト終了後の教室だった。
いや、「拾った」という言い方はよくないだろう。
それはタクヤの椅子の上に置かれた、タクヤ宛ての封筒だったからだ。
試験が終わった解放感から、クラスメイトたちは皆さっさと帰っている。初夏の昼下がりの教室には、忘れ物を取りにきた僕をのぞいて、誰も残っていない。
僕にとってタクヤは、クラスで一番仲の良い友人だ。その彼への宛て名が、明らかに女の子っぽい文字で書かれているではないか。
そっと封筒を手に取り、裏返してみる。差出人の名前は、やはり女のものだった。
封は、すでに開けられている。
いけないとは思いつつ、好奇心に負け、中身を抜き出してしまった。
入っていたのは便箋が一枚だけ。書かれていたのも、短く単純な文章だった。
──ずっと好きでした。こんなに人を好きになったことなんてなかった。ありがとう。
おいおい、これは面白くなってきたぞ。
差出人は、クラスの女子ではない。住所が書いてないから手渡しのはずで、つまりこの高校の誰かだろう。この名前は聞いたことないけど、別の学年なら僕もよく知らないし。いや待て、近くの女子高の生徒から渡された可能性もあるな。それにしても、今時メールじゃなくてラブレターというのが純粋というか……。
僕はそのラブレターを鞄にしまい、持ち帰ることにした。
顔はニヤついていたけど、けっしてイタズラ心からではない。
このままにしておいて、教師やほかの生徒たちに見つかったらまずいと思ったからだ。次の登校時、そっとタクヤの机に入れるか、読んでないフリをして「落とし物だぞ」と彼に渡すつもりだった。
しかし翌朝、タクヤは学校に来なかった。