2022.4.20
野村克也、田中角栄……すぐれたリーダーが持つ言葉の力とは?【畠山理仁×加藤弘士対談】
名将で知られる故・野村克也さんの社会人野球シダックス監督時代を追った『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(新潮社)だ。著者は当時、報知新聞社のアマチュア野球担当として野村氏に密着していた加藤弘士さん。今作が初の著書となる加藤さんだが、その執筆時にパワーをもらった1冊が、「よみタイ」での連載をまとめた畠山理仁さんの『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)だったという。
そんな話から実現した今回の特別対談。
かたや野球と監督、かたや選挙と政治家――そう聞くと取材対象が全く異なる異色対談のようだが、ともに現場にこだわる記者、ライターとしての熱き想いを持ち、取材対象者は特別な言葉の力を持つ人が多いなど、共通するテーマがじつは多くて――。お楽しみください。
(撮影/齋藤晴香 取材・構成/「よみタイ」編集部)
選挙の現場に行くと必ずお土産を持って帰ることができる
加藤
お時間をいただきありがとうございます! 『砂まみれの名将 野村克也の1140日』は僕にとって初めての本になるのですが……。
畠山
おめでとうございます! 楽しく読ませていただきました。
加藤
じつはこの本の執筆中、まさに追い込みの時期に、畠山さんの『コロナ時代の選挙漫遊記』を読んで力をいただいたんです。野村克也さんは「言い訳は進歩の敵だ」という話をよくしてくださったのですが、当時、自分の中でいろんな言い訳をして、ちょっと締め切りが遅れそうになっていたんですね。もともと新聞だと、その日の何時って締め切りが決まっているので、その時間までに書かないってことは、まずあり得ないんですけど、本だと、「すみません、ちょっと忙しくて1週間遅れます、2週間遅れます」って言えちゃうじゃないですか。
畠山
どれくらい遅れたんですか? (取材に同席する)担当編集の方が怖い目で見ていましたけど、今(笑)。
加藤
(笑)。そんなときに畠山さんの本を拝読しまして。コロナ禍でも選挙取材という自分の営みを止めるのではなく、コロナ禍だからこそいろんな現場に行って、今しかないものを体感し、人々に話を聞いて、それを一冊の本にまとめていた。コロナを言い訳にしないというか、「止まらないな、この人は。むしろ加速しているな。うわ、俺もやんなきゃダメだ」って本当に思ったんです。
畠山
うれしいです。
加藤
ビジネスホテルに缶詰めになって書いていたんですけど、書かなきゃいけないのに読んじゃうんですよ。ただ、この読んでしまう時間が僕にとっては書くためのガソリンを補給する時間だと思って、読みながら書いて、また読みながら書いて、とパワーをいただいたんです。とにかく、畠山さんはものすごい現場主義ですよね。まず、そこに行く。
畠山
そもそも自分が現場に行かないと、誰からも情報が伝わってこない人のところへ取材に行くことが多いんですよね。他の記者が行っていない。そこに行ったら記者は自分ひとりということも多い。行かないとどうしようもないっていう感じなんです。
加藤
でも現場に行けばものすごく感じることがある。書くべきことが見えてくる。
畠山
そうですね。それが世間のニーズと合致しているかというと、必ずしもそうじゃないってことはあるんです。でも、選挙取材は好きでやっているし、毎回これは書いているんですけど、「選挙の現場に行くと必ずお土産を持って帰ることができる」んです。今までの取材経験でも、自分とは別人格の人に会うと必ず精神的なお土産がある。記者の仕事の面白さが一番わかるのは、やっぱり現場だと思います。
加藤
ですよね。僕も、書く上で一番大事にしているのはやはり現場取材することです。書店に行くと、スポーツ関連でも、すごく上手な書き手の方が、過去の新聞や本などの文献に必死にあたってよくここまで調べたなっていう面白い読み物もたくさんあります。でも、こういう本は自分には書けないなと思っていて。僕は、とにかく取材するというか、人に話を聞く。書く上での不安は人に取材することでしか解消できないとすごく思っているんです。ひょっとしたら、畠山さんもそういう感じで書かれているんじゃないかなと本を読んで伝わってきました。
畠山
私自身は、1つのことに対して柱になるような考えがある立派な人間じゃないんです。だから人に会って話を聞くことは、「ああ、そういうことを考えて、こういうことをやっているんだ」という新鮮な発見の連続です。自分の頭の中だけで考えても生まれないことが、別の人格に会うことですごくいっぱい出てくる。特に私が選挙取材で追っかけている人たちは、とてもユニークでエネルギーに満ち溢れた方が多いから、毎日が大冒険です。