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野村克也、田中角栄……すぐれたリーダーが持つ言葉の力とは?【畠山理仁×加藤弘士対談】 

「社会人野球というプロと比べたら目立たない世界の人たちにも、本当にそれぞれの人生があり、いいときも悪いときもある。自分の身に照らしてみて共感できる部分が描かれていて、うるうるくる場面がたくさんありました」(畠山氏)
「社会人野球というプロと比べたら目立たない世界の人たちにも、本当にそれぞれの人生があり、いいときも悪いときもある。自分の身に照らしてみて共感できる部分が描かれていて、うるうるくる場面がたくさんありました」(畠山氏)

取材対象者から怒られることは、仕事の原点に返らせてくれる痛み

加藤 
でも、選挙の持つフェス感というか熱狂というか、これは野球の大会とかにも相通じるものがあるんですよね。人々が夢中になってどこか正気じゃなくなるというか。熱が本当にうごめくときの人間って、本当に面白いじゃないですか。

畠山 
面白いです。予想外のことばかりで。

加藤 
たぶん、野村監督もシダックス時代に都市対抗優勝という当選ラインが見えてきたときに、少し冷静な判断ができなかったのかもしれないなと思ったんですよ。畠山さんの本に出てくるような政治家の方々も、その熱狂の中で、高学歴でふだんは冷静できちんとした方がちょっとおかしくなるような瞬間があって。そこがすごく面白いなと思ったんです。

畠山 
最近、選挙のドキュメンタリー映画がたくさん出てきています。大島新監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』も盛り上がりました。小川淳也さんは「統計王子」と言われて国会での冷静な質問で世の中を沸かせたわけですけど、そんな小川さんでさえ、沸騰する瞬間がある。この映画の中で、日本維新の会から町川順子さんという候補者が出るっていうときに、小川さんは尋常じゃない行動をとりました。公認発表は終わっているのに、町川さんのところに行って直談判で「野党がまとまらなきゃダメなんだ」ということを言ってしまう。それを撮られて拡散されてどんどん責められて。仲間からも「あんなことする意味がない」って言われるほど、完全に冷静さを失っていました。でも、それぐらい勝つためには何でもやらなきゃいけないっていう、本当に一種、異常な精神状態というか、冷静な判断ができなくなるっていう勝負事の面白さがある。

だから、加藤さんが書かれた中でも、都市対抗の決勝で野村監督がエースの野間口投手を降ろすかどうかというところで、失敗というか情が出てしまったところの描写は臨場感がありました。ネット裏で見ていた日本野球連盟会長に、のちに野村さんが「あのとき『シダックス負けろ』って思っていたでしょ?」と聞くシーンとか、すごく面白い。

加藤 
選挙って究極のガチンコ勝負。本当に先が見えない中で、しかも落ちたら全部を失う、勝ったら総取りみたいな勝負じゃないですか。勝負事という意味では野球とも相通じるんです。結局、勝負事に魅せられちゃった人たちの話で、それは監督や政治家のようなリーダーでも、それを取り巻く人々でも、みんなすごく面白い。
候補者本人じゃないけど、事務局長の方とか選挙事務所で応対してくれる人たちが、みんなすごくいい味を出していて。「畠山さんに本音でしゃべっていいのかな、でもやっぱりせっかく来たんだからおもてなししよう」みたいな。その感情の機微みたいなものがすごく臨場感たっぷりに描かれていたので、僕もそこに影響を受けたのかもしれません。真剣勝負の場だからこそ、つい出ちゃう人間の性というか、そこには普遍的な魅力があります。

畠山 
加藤さんの書いた記事を読んで野村さんが怒っているという電話がかかってきたエピソードもありました。加藤さんは、「今から行きます」と自腹で中伊豆に行きましたね。

加藤 
はい、自腹でした(笑)。畠山さんもありますか、電話で怒られることとか?

畠山 
怒られることはあります。背筋がゾワワワッてなりますよね。ただ、緊張感がなく、惰性でいつも余裕で取材して余裕で書いてっていうよりは、こういうことがたまにあると、ヒッとなりますよね(笑)。

加藤 
わかります。ヒッとなります(笑)。でも、取材対象から怒られるのは、自分の仕事の本質というか原点に返らせてくれる痛みだったりします。だから、ないに越したことはないけれども、この仕事をしていると、たまに怒られることもないといけないのかなっていう気もしています。

畠山 
「怒られる」って、相手もこちらとの人間関係がある程度あるからこそ、ってところもあると思うんですよね。本当に嫌だったら、いきなり訴えたりするでしょう。その前に、「ちょっとこれは違うんじゃないか」みたいに言ってくれるっていうことは、こちらへの期待が向こうの希望とは合致しなかったとき。「畠山さんはそういうのを書かないと思ってたよ」「このテーマ、うちはあんまり書かれたくないんだけど、それ畠山さん、本当に書く必要あるの?」みたいに言われたこともあります。でも、そう言われると逆に書かなきゃいけないかなと燃えちゃったりする。
だから、ある程度、期待も信頼もあるから怒りの連絡をくれるんだなっていうふうに思っています。期待じゃなくても、関心は持ってもらえている。そう思うようにしないと、たぶんメンタルが持たないです(笑)。連絡をくれるってことは、会いにいったらまだ大丈夫なんじゃないかっていう希望の光だと無理やり思い込んでいます。

加藤 
どんどん世知辛い世の中になっていると思うんですけど、そのあたりの感情のラリーは大切にしていきたいっていうか、そのラリーがきっかけでむしろ仲良くなった人もいます。そういう時こそ自分が試されているような気がするので、きちんと直接行って火の粉は浴びるつもりでいるんです。でも結果的には、今回書いた野村監督のように、「よく来たな」っていうことが結構あります。だから、僕なんかが監督に対してどうこう言うのはおこがましいですけど、そのあたりは“リーダーの器”じゃないですけども、そういうものが見られるときなのかなっていう気もするんですよね。

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加藤弘士

かとう・ひろし●報知新聞社、スポーツ報知デジタル編集デスク。
1974年生まれ。茨城県水戸市出身。慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、1997年に報知新聞社入社。2003年からアマチュア野球担当としてシダックス監督時代の野村克也氏を取材。09年にはプロ野球楽天担当として再び野村氏を取材。その後、アマチュア野球キャップ、巨人、西武などを担当。スポーツ報知公式YouTube「報知プロ野球チャンネル」のメインMCも務める。

畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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