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人事異動を楽しそうに語る人には、なりたくない! “群れ”に巻き込まれる男性、“正義感の壁”にぶち当たる女性

人事異動を楽しそうに語る人には、なりたくない! “群れ”に巻き込まれる男性、“正義感の壁”にぶち当たる女性

育てる存在としての日本のアイドル、 完成された存在としての韓国のアイドル

浜田 武田さんは芸能界についてもよく書いていらっしゃいますが、昔のアイドルは男性だけではく、女性にも支持されていた。山口百恵とかキョンキョンとか。ぶりっ子と言われた松田聖子も、女子のファンが多かった。それを考えると、最近はアイドルに愛玩的な度合いが強まっているのを感じます。それはなぜなんでしょうか。NGT48の山口真帆さん暴行事件の報道を見ていると、「こういうシステムは危機管理的にも厳しくなっている」と思いますが。

武田 グループ運営会社の記者会見を見て、企業として「どのように誠実に対応するか」が厳しく求められる時代だというのに、この人たちは全くわかっていないと驚きましたね。それに自分は、彼らが作り出したシステムは諸悪の根源だとすら思っていて。

浜田 それはどういうことでしょうか。

武田 彼女らのドキュメンタリーを見ていると、ファンの人たちがあたかも育て親であるかのような言動をしている。でも当然です。そう思わせるような仕組みになっているのだから。何の葛藤もなく、そういうものに慣らされてしまうのは危険だなと思いますね。長らく続いてきた「若い女の子たちの成長過程を見守る」というやり方が、テレビに出てくる女性のフォーマットになり過ぎている気もします。

浜田 男の人が女の子を愛でて育てる構造ができたんですね。

武田 「今、ああやってセンターに立ってるあの子、最初はダンスもおぼつかなかったのに、こんなに立派になって。自分、誰も知らない頃から見ていて……」みたいなエピソードが、アイドルの消費のされ方のスタンダードになっている。

浜田 一方で今の若い女の子たちは、韓国のアイドルのメイクやファッションを真似し始めていますよね。10代だったらTWICEとか。彼女たちのメイクは、男の子に媚びる感じじゃないんです。

武田 韓国の芸能界にも色々な問題があるようですが、成長過程を売りにするのと、成長した状態を売りにするのとでは、大きな違いがありますね。

浜田 プロですよね。だから日本の女の子たちは本能的に彼女たちの強さをカッコイイと感じて、惹かれているようです。

武田 確かに主体的な感じがします。日本でも売れている韓国のベストセラー小説『82年生まれ、キム・ジヨン』について、少女時代のメンバーが発言していましたし。

浜田 『82年生まれ、キム・ジヨン』は、女性作家のチョ・ナムジュさんがある女性の半生を通して、現代女性の困難を描いた小説です。今、日本と韓国の間には政治的な軋轢がありますが、ボーダーレスに共感する人はたくさんいるんだなと思いますね。そういえば、韓国の男性アイドル・BTSのメンバーも政治的な発言をしていましたが、日本ではそういう問題やジェンダーについて誰も発言しませんね。ローラさんがちょっと言っただけで騒ぎになるくらいだから。

武田 彼女にしても、特定の政党への支持を表明するなどの政治的な発言ではなく、「美しい海を守ろう」と言っただけですからね。もちろん、支持政党を表明したっていいわけですが。

浜田 あとはウーマンラッシュアワーの村本さんとりゅうちぇるさんくらいです。

武田 政治的な発言をすると仕事が減る、その様子を周りの芸能人たちが見て、やめておこうと控える。こうなったら、誰も言わなくなりますよね。

説得力があるのは 国を語るときより自分を語るとき

浜田 日本の男性は女性アイドルを愛でて育てるという話を聞くと、「男性はプライドが高いから弱みを見せられないのかな」と思います。そう感じるのにはほかにも理由があって、アエラ時代、男性部員から自分が悩んでいること、つまり“私”が主語の企画は上がってこなかったんです。女性部員は仕事にしろ子育てにしろ、自分が痛感していることを企画に出すのに。もちろん男性にも仕事や子育ての悩みはあるわけだから、何度も取材しましたが、とにかく話がつまらない。なぜなら自分の話じゃなくて他人の話をしたり、いきなり「日本では」などと言い始めるからなんです。

武田 わかります。「業界では」とか、「世界では」とか、大きなことを言い出すんですよね。

浜田 女性の場合、仕事でもパートナー選びでも子育てでも、どういう選択をするかが男性以上にその後に大きく関係してくる。「どっちを選ぶ?」「どうする?」という問いに対して、常に自分を俯瞰で見ながら考えるんです。だから“私”が主語の発想ができるんだと思う。

武田 自分が「会社を辞めてライターに」と周囲に告げたとき、女性の先輩たちから「どういうものを書こうと思っているの?」「一緒に仕事できることがあったらいいね」と言われましたが、男性からは「ライターで食っていけるのか」「奥さんは大丈夫?」などと言われた。あまり男女で何かを分けるべきではないですが、くっきり分かれたんですね。その人の視点では聞いてこないんです。そこには、「出版業界」や「社会」といった大きな主語があり、「〇〇歳ならこれくらいの稼ぎ」といった通例に基づいて考えているから、こうなるのかなと思いました。

浜田 さっき「ジェンダー問題を提起すると論理をすり替えた反論や変化球が返ってくる」と言いましたが、業界や社会にすり替えた話をする男性は多いですね。

武田 「ジェンダー問題についてあなた自身はどう思っているんですか?」と聞くと、「でも逆に女性だって」とゴニョゴニョした返ししか出てこなくなるんです。

浜田 たとえばセクハラについて、自分はどう思っているかが言えないから、「もう会社の女の子に何も言えない」「大変だよね」となる。本質的に「女性を差別したらいけない」と思っていないんです。

武田 「相手のことを尊重しよう。人権を大切にしよう」という話をしているのに「最近、ルールが増えたよね」なんて話になるんです。

浜田 男性から「どこからがハラスメントですか。どこまで大丈夫ですか」とよく聞かれますが、「それもわからないの?」と思ってしまって。

武田 なぜ彼らがハラスメントにならない限界を目指すのかがわからない(笑)。

浜田 本当にそうですね。就活セクハラがものすごく多いのも、「社内がダメなら就活生に」と矛先を変えたとしか思えないんです。

武田 告発されないと舐めているのか。一発でアウトなのに。

浜田 なぜゆがんだ関係を望むのかということが、私には本当にわからないんです。

武田 AVでは、女性が最初は嫌がるストーリー展開が多い。昔からずっとそうだから、「三回断られたけど、四回目はいいんでしょう?」という頭になりかねない。そういう考えを更新しないままの人も多い気がします。そして、芸能界の仕組み。女性タレントはバラエティ番組で力のあるお笑い芸人たちにいじられまくって、ようやく自分の居場所をもらえる。視聴者は「彼女たちはそうやって這い上がってきた」とわかっている。そういう状態を繰り返し見て、この構造をおかしくないと思ってしまうのではないかと。それを行使する人として、特に目立つのが自分より上、引退した団塊世代より下の世代ですね。つまり、今、あらゆる会社の上層部にいる世代というか。

浜田 私の同世代ですね。先日酒井順子さんとの対談でも話題になりましたが、ダメな世代です(笑)。

武田 それくらいの男性たちが上の世代のたたき上げの人たちをバカにし、下の世代の若い芽をつぶしているとしたら、でも自分ら、すでに整った社会のシステムに乗っかっているだけじゃん、と言いたくはなる。

浜田 ジェンダー問題については、自称リベラルな男性の論客にもすごく差別的な人が多いですね。

武田 まったくです。講演会などで「男女平等」と言いながら、打ち上げになったら「あの子、かわいいじゃん。こっち来させてよ」みたいな。

浜田 「海外難民の人権と女性の人権が、なぜ彼の中ではつながらないんだろう」みたいなことをよく感じます。これも「“私”という視点がなくて大きい視点で語りたがる」ということなのでしょうか。

武田 「お前個人のことから始めるな」とよく言いますからね。

浜田 そうなんです。集団的自衛権のときも「自分の子どもを戦争に行かせたくないから反対」という女性の論理をバカにする男性が多かった。でも特に今の若い人たちは「自分の問題と国の問題がどうつながっているか」に敏感になってきています。

武田 個人の話をするときと国の話をするときのどちらに説得力があるかといえば、やはり個人の話をするとき。自分の感情から起動せずになぜ国を語れるのかと思います。

浜田 そういうことを考えても、企業が今までのやり方や体質を変えたいと思ったら、女性でも外国人でもいいから、組織の中に3割はダイバーシティの要素が必要でしょう。それくらいの仲間がいないと、大勢の人を動かすのは難しいと思いますね。

浜田敬子著『働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』(集英社)
浜田敬子著『働く女子と罪悪感 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』(集英社)

構成・文/山本圭子
撮影/chihiro.

特集対談①はこちらから→https://yomitai.jp/special/hamadakeiko-01/

特集対談②はこちらから→https://yomitai.jp/special/hamadakeiko-02/

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新刊紹介

武田砂鉄

たけだ・さてつ
1982年生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。2015年『紋切型社会』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に『日本の気配』『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』『べつに怒ってない』『今日拾った言葉たち』などがある。週刊誌、文芸誌、ファッション誌、ウェブメディアなど、さまざまな媒体で連載を執筆するほか、近年はラジオパーソナリティとしても活動の幅を広げている。

浜田敬子

はまだ・けいこ●1966年山口県生まれ。ジャーナリスト。上智大学法学部卒業後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」編集部を経て、1999年から「AERA」編集部。2014年に女性初の「AERA」編集長に就任。17年に退社し「Business Insider Japan」統括編集長に就任、20年末に退任。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニンショー」、TBS「サンデーモーニング」などでコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティに関しての講演を行う。著書に『働く女子と罪悪感』(集英社)がある。

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