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ジェンダー平等のアイスランドに育ったビョークが、映画『女性の休日』に託した思いとは? 【社会に言葉の一石を。もの言う女性アーティスト特集 第2回】

#Me Too運動に賛同し、主演作で受けたセクハラをSNSに連投

コンサートの最後に歌われた『Utopia』の収録曲「Tabula Rasa」では、「子どもたちのために世界を白紙の状態に戻して、未来を引き渡したい」という思いが込められ、“父親たちの失敗の連鎖を断ち切ろう”“私たち女性が立ち上がって抵抗し、泣き寝入りはしない”“そのときが来た:世界は耳を傾けている”と歌う。

思い出すのは、このアルバムを発表する1ヶ月前の2017年10月17日に、映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインに対して数十件の性暴力事件が提起されたことを受け、ビョークも#Me Too運動に賛同したことだ。自身のフェイスブックに、デンマークの映画監督から性的な嫌がらせを受けたことを6回にわたって連投したのだが、これはビョークの主演映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)のラース・フォン・トリアー監督のことだろう。文面の終わりには「この呪いを解こう」という文言も記されていた。この件からも、女性が声を上げる必要性を強く感じていたと想像できる。

「家母長制の丸い屋根を編む」と女性の連帯を重視した「Future Forever」

『Cornucopia』は音色やシアトリカルなパフォーマンスの芸術性としても高く評価され、女性によるコミュニティでの相互作用を重視した姿勢など、ビョークが牽引する確かな意志も感じられた。その演出の中でも、女性のフルート奏者4人がフルートで輪を作り、その中心 でビョークが歌う場面は象徴的だ。そしてアンコールで女性20名によるコーラスとビョークによって壮大に歌われる「Future Forever」では、“新しい巣を作る私を見て/家母長制の丸い屋根を編む/音楽の足場を組む/眠りと覚醒の間で”というフレーズが耳に残る。この大切にしている曲を『女性の休日』に提供したことは、それだけこの50年前の出来事がビョークの強い意志の根幹になっているということだろう。

左側に男女混成合唱団、右は特注のフルートの輪の中で歌うビョーク  Photo: Santiago Felipe
左側に男女混成合唱団、右は特注のフルートの輪の中で歌うビョーク  Photo: Santiago Felipe

ビョークはこのコンサートでアメリカから、ヨーロッパ、オーストラリアや日本などを周り、これらのメッセージを訴えてきた。ジェンダーギャップの問題は多くの国で提議されているが、果たして日本は改善されていくのであろうか。

*このコンサート映画『Cornucopia:Live(コーニュコピア:ライヴ)』の映像や音楽は、CD/DVDやBlu-rayなど複数の形態で発売中(BIG NOTHING)。

『女性の休日』
シアター・イメージフォーラム他全国順次公開中
公式サイト
© 2024 Other Noises and Krumma Films.

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伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者。『フィガロジャポン』『SPUR』などのモード誌や音楽媒体で多数のインタビュー、対談記事を執筆してきた。取材アーティストはデヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッド、宇多田ヒカル、椎名林檎など国内外問わず多数。
X:@natsumiitoh
Instagram:@natsumiii28

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