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小さな町から甲子園に初出場した平田高校(島根)。熱き思いは地元の園児たちに受け継がれる

甲子園球児に教えられた子どもが〝聖地〞を目指す  

選手たちが掲げた甲子園で校歌を歌うという目標は果たせなかったが、〝聖地〞に大きな足跡を残した。平田町で暮らす人々は、テレビを通じて「カッコいい」姿を目に焼きつけたことだろう。『僕らの夏』制作スタッフの井浦が言う。

「今回の甲子園を、保育園児や幼稚園児が覚えているかどうかはわかりません。ただ、録画した試合の映像を見返すことはきっとあるでしょう。そのうち、『あのとき甲子園に行ったメンバーに教えてもらいました』という選手が出てくるでしょう。そのときに、野球教室の本当の価値に気づくかもしれませんね。園児はまだ小さすぎて、甲子園がどういうところかを理解できてないと思いますが、甲子園が身近にあることはわかったはずです」

偉業を成し遂げた選手たちは甲子園の語り部になることだろう。

「甲子園に初めて出たところから何が始まるのか、どう変化していくのか。町の人々も含めて気になります。僕の勝手な想像ですけど、野球教室とかを通じて子どもたちと触れ合ったことで、教える道に進む選手が出るんじゃないでしょうか」

彼らが甲子園でプレーしたのは2時間6分だが、これは何事にも代えがたい貴重な経験だ。

「最後は0対4負けましたが、途中までは0対0で、どっちが勝つかわからないような試合展開でした。平田の選手たちは本当に楽しそうに野球をやっているなと感じました。練習中は笑顔もなく、厳しそうな印象だったんですけど、甲子園で伸び伸びと戦っているなって。町の人にも、甲子園に出た記憶はずっと残るはずです。彼らが甲子園に出られたことは本当によかったと思います」

町のいろいろな人から「甲子園はどうやった?」と聞かれて、平田の選手たちはどう答えているだろうか。

「そういう意味で、ある種の使命を背負って、甲子園に立ったんだろうなと思いますね。今後、どうやって地域の人にフィードバックするかが楽しみです」

2017年に植田監督のすすめで始めた普及活動はこれからも続いていくだろう。保育園児や幼稚園児が大きくなれば、平田野球部の応援団になるはずだ。その親たちも加わって、支援の輪は少しずつ大きくなっていく。

毎年、プロ野球に選手を送り込む強豪もあれば、地元出身の選手が集まり、地域の人の期待を背負って戦うチームもある。今回、初めて甲子園の地を踏んだ平田の目標は、甲子園で校歌を歌うこと。それが実現する日を、町の人たちが一番楽しみにしているはずだ。

甲子園史に残る2020年。球児たちの想いを追った『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』

『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』は、今回の平田高校のほかにもたくさんの感動エピソードが満載。

【第1章】ヒロド歩美が見た 2020年の高校野球
【第2章】球児を奮い立たせた家族の力
【第3章】甲子園が消えた夏に求めた 「心の中の甲子園」
【第4章】球児を支えた仲間の絆
【第5章】白血病から復活へ
【第6章】球児を育てた地域の力
【第7章】それぞれの「最後の夏」
【第8章】甲子園交流試合 熱戦譜

以上の全8章で構成されています。

『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』の詳細はこちらから

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