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小さな町から甲子園に初出場した平田高校(島根)。熱き思いは地元の園児たちに受け継がれる

新型コロナウイルスの影響で史上初めて、春・夏ともに甲子園が中止となった2020年。

今年8月、甲子園交流試合開催時に放送された朝日放送テレビ「2020高校野球 僕らの夏」。その番組取材班だから見つめることができた、球児たちの感動ドキュメントが『消えた甲子園 2020高校野球 僕らの夏』です。特別な夏、球児たちが刻んだ「僕らの証」とはいったんなんだったのか?

全8章にまとめられた単行本の中から3回にわたり内容を紹介する特集企画。第1回の「日本ハムドラフト4位、智弁和歌山・細川凌平選手と父との絆」、第2回の「阿波高校(徳島)女子球児の最後の夏」に続き、今回は最終回。【第6章:球児を育てた地域の力】に収録された島根・平田高校のストーリー。センバツの21世紀枠で甲子園初出場が決まるもコロナで中止に。その後、交流試合で初めて甲子園に立った選手たちには、愛する故郷への思いがありました。

※書籍から一部抜粋・再編集しています。
(構成/よみタイ編集部)
学校関係者のみの入場制限。マスク姿で間隔をあけ声も出せない応援。甲子園交流試合のスタンドは今年ならではの風景だった。©共同通信社
学校関係者のみの入場制限。マスク姿で間隔をあけ声も出せない応援。甲子園交流試合のスタンドは今年ならではの風景だった。©共同通信社

人口7000人の町から甲子園を目指した平田

島根県出雲市平田町にある平田高校は、2005年に合併により出雲市になった旧・平田市にある唯一の高校だ(※出雲市は、旧出雲市・平田市・簸川郡大社町・湖陵町・多伎町・佐田町の2市4町が合併してできた)。当然、地元には卒業生が多く、地域の住民から愛され、応援され続けている。

2020年1月24日にセンバツの21世紀枠で選ばれた瞬間、町のあちこちで歓声が起こった。春夏合わせて初めての甲子園出場だからだ。

センバツの21世紀枠で平田が選出される決め手になったのは、野球部員による地道な野球の普及活動だった。過疎化と野球人口減少に悩む地域で、数年前から地元の保育園、幼稚園の園児らを対象に野球教室を開くなど、普及活動に力を入れており、野球部内に「普及班」を設けて自主的に活動している点や、作成したマニュアルが県内外で参考にされるなど、活動の輪を広げている点が評価された。

センバツ出場のかかった昨秋の島根大会では強豪がひしめくブロックに入ったが、見事に準優勝して中国大会に進出、1回戦で強豪の尾道商業を2対0で下した。準々決勝で甲子園常連校の鳥取城北に2対9で敗れたものの、守備力の高さをアピールした。

2015年、2019年に21世紀枠の候補になっていたが、選出されなかった。それだけに今回の選出で大いに町は盛り上がった。しかし、3月11日にセンバツの中止が決定。そのおよそ3カ月後に甲子園交流試合の開催が発表された。悲喜こもごもの甲子園初出場となった。

甲子園交流試合の前に平田を訪れた『僕らの夏』制作スタッフの井浦琢朗はすぐに、この高校の野球部が地域に愛されていることに気づいた。

「町に着いた瞬間に、のどかで、お年寄りが多そうなところだなと思いました。宿泊先は出雲市駅近くだったのですが、そのあたりとは違って緑の多いところ。平田高校が平田町にある唯一の高校だということもあって、あちこちに『甲子園出場おめでとう』というのぼりが立っていて、『愛されているな』と思いました」

部員は地元出身の者ばかり。甲子園に出るために親元を離れてやってくるような選手はひとりもいない。

「甲子園常連校などの取材に行くと、部員数とか体の大きさに圧倒されることが多いのですが、平田は部員数もそこまで多くはなく、特別、体の大きな選手もいなかった。全国各地にある公立高校と同じ第一印象でした」

レギュラーに与えられるひとケタ背番号の選手の中に、身長160センチ台の選手が4人もいる。大型化が進む高校野球の中では珍しい存在だ。

「21世紀枠で選ばれたのは普及活動が高く評価されたからですが、もし僕が高校時代に野球教室をやれと言われたら、『面倒くさいな』と思ったかもしれません。平田の選手たちも、それをやりたくて野球部に入ったわけじゃないでしょう。でも、彼らは積極的に普及活動を行っていて、自分たちでいろいろな準備をしたと聞きました」

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