2020.12.23
男と女、そもそも自意識過剰なのってどっち?〜 意識高い女 vs. I amな男
「よみタイ」でも大好評だった連載コラム、「○○○な女 オンナはそれを我慢している」と「×××な男 酒と泪とオトコと美学」から厳選された30人の男女の話をまとめた1冊です。
今回は、惜しくも書籍未収録となったエピソード「意識高い女〜伸びやかな自意識が削られる前の話」と「I amな男 ~Wikipedia自分で編集するその自意識に乾杯の話」を対決形式で2篇同時にお届けします。
男と女、果たして自意識過剰なのはどっち!?
※連載コラムを一部抜粋・再編集しています。
(構成/よみタイ編集部)
意識高い女〜伸びやかな自意識が削られる前の話
先日、仕事関係の知人と食事をするのに彼が会社の後輩である20代の女を同伴で現れた。事前に彼からあった情報は
「新人の子、勉強のために同席させます。すごい意識高い感じだけど一所懸命ないい子なので」
私は若さを持て余した滑稽な男が死ぬほど嫌いなのだけど、若さを持て余した滑稽な女は大変好きなので、「オッケーオッケーもちろんどうぞ」と受け入れて、彼と共に現れ、しっかりした態度と礼儀で名刺を差し出したその新人女子を、「お、思ったより全然可愛いぞ」と大変好意的な気持ちで見ていた。
案の定、最初だけやや控えめに上司と私の仕事のやり取りや同業者の悪口などを聞いていたものの、彼女の得意分野である男性の育休取得問題や家庭での役割分担などに話題が流れると、一度もったマイクを離さない酔っ払いがごとく、徐々に本格的なスピーチを始めた。
彼女の一所懸命さを笑う人がいたら私は全力で殴ってあげよう、と思うくらいには、彼女は大変心の清い、真面目な若者ではある。
意識が高いと言えば聞こえが悪いが、それが巷に溢れるオンラインサロン的なヤツではなく、もっと純粋に、弱い者を助けたり、弱者が伸びやかに生きる世界を作ったりしたい、と考えているのだというのもよく分かった。
しかし彼女は、別に育児に困っているわけでもなく、というか別に結婚も出産も経験しておらず、慶應卒のご両親のもとで育って慶應に入り、学生時代にはなんとかプロジェクトでなんちゃらビジネスコンテストに入賞して、ブルカをつける宗教でもなく、規則に縛られる王女でもなく、当然人を氷にしちゃえる魔法とかも持っていないので、イマイチどの抑圧に怒っているのかが不明瞭であり、しかし抑圧を押しのけて自分の足で歩いていく、というイメージが先行しているので、そのための抑圧を頑張って探してちょっと見つけては頑張って押しのけている、というのが私の所感。
そしてこの世はなんというか、絶妙なところに絶妙なことが起こる、という親切なことを時々すごくしてくれる場所で、彼女が男性が育休を取りづらい会社は決まって子供のいる女性の総合職復帰率がどうの、という強い問題意識を露呈したところで、居酒屋にまさかのジャスミンの歌が流れる、という奇跡が起きた。
アラジン実写版でジャスミンが空気読まずに「黙らない泣かない壊れない」と独唱する楽曲「Speechless」だ。
スピ〜チレ〜ス♪の歌声をバックに、会社の仕事とは別に私は今友人たちと女性の起業家を応援するサイトの運営もやっていて、と話す彼女があまりにしっくりきすぎて、私は新人女子の顔画像をフェイスブックかどこかから拾ってジャスミンでコラでも作りたい衝動にかられていた。
生活指導の田岡とかマジうざくね?から始まり、教養科目に体育入ってるのとかマジだるくね?と続き、飲酒運転規制とか超やばくね?とか、「あなたとは違うんです」とか言ってるハゲ超絶ウザくね?とばかり呟いていた若者より、彼女のように、会社に囚われず、性差に捉われず、良い未来のためにできることをしよう、と足掻いている若者の方がずっと優れているに決まっている。
とりあえずハゲには色目使っときゃいいっしょとなめていた若者より、上司や男に媚びずにしっかり言いたいことを言い、ありのままの姿見せる女の方が正しいに決まっている。
ただし、非の打ち所のない主張というのは人間を寄せ付けない暴力性があるので、それをきっと正しく遂行できない多くの人間に怒り、自分は正しい信念を持っているはずなのにどうしてこの人たちは私の邪魔をしてくるのだろう、と被害者意識を誘発し、みんなにちょっとずつでいいから本当に大切なことを分かってほしい、と盲目的に明るい未来を強要してくるような不気味さを孕んでいる。
ジャスミンに幸福になってほしいという思いに偽りはないのだけど、ジャスミンの啓蒙にやや怖さを感じるのは、それが、一見大変優秀で非の打ち所のない主張をする若者を引き込むだけの論理が、「ジャスミンには」あるからだ。
彼女の歌には強い女性像があって、それを壊そうとしてくる力があって、その力にも負けない意気込みがあるのだけど、私たちは自分の人生の主役ではあるもののアラビアンナイトの主役ではないので、悪いヤツのほうが居心地がいいとか良い人っていうだけじゃモテないし稼げないとか、そういうもう少しぐちゃっとした世界に生きている。
私はというとそんなにヒットしなかったけどアニメと実写が交差してプリンセスがプリンセスから抜け出す物語「魔法にかけられて」とかの方がまだ好きで、明らかに模索してる感があるというか、ぶっちゃけ頑張って古い物語の解体的な作品に挑戦はしているものの、女の子っぽさとかプリンセスっぽさとかいろんなものに気を使ったがゆえに、実は全然旧来の枠組みを超えてないどころかより強固にしちゃってるところが、この世の男と女なんて正しい方向がわかったところでそこに向かって真っ直ぐ歩いて行ったりはしないぜ、という皮肉を感じて小気味がいい。
正しいことに感動していた新人女子たちのウブな心が、そのうちクソみたいな男に惚れて削られたり、クソみたいな男と別れて研磨されたり、クソみたいな男とよりを戻して丸くなっていったりするのは大変残念だが、そうなってからの方が一緒にスナックで飲むには楽しいだろうなとも思う。