よみタイ

【いい夫婦の日に読みたい本】「夫婦は必ず別れることになるものだから…」書評家・タカザワケンジさんが選ぶ<夫婦本>3冊

11月22日は、語呂合わせから「いい夫婦の日」として有名です。毎年この日を選んで入籍するカップルも少なくありません。

そんな夫婦の記念日に寄せて、「よみタイ」では、「いい夫婦の日に読みたい本」特集をお届けします。全3回の特別企画です!
第1回では、「よみタイ」発の単行本をピックアップ。コミックから法律的見地の解説書まで、様々な角度や視点から、夫婦関係や夫婦のあり方について考えるきっかけとなる本をご紹介しました。

第2回の今回は、書評家でライターのタカザワケンジさんに3冊の本を紹介していただきます。
文芸書評や文庫解説を数多く手がけ、写真評論家としても幅広く活躍するタカザワさんが選ぶ、究極の“夫婦本”とは?

天才・アラーキーの妻が残した夫婦エッセイ 『愛情生活』(荒木陽子)

 結婚はいいものだ、と思う。
 しかし結婚する前は露ほどもそう思っていなかった。むしろ結婚なんてしたくなかった。親をはじめとする周りを見渡して、あこがれるような夫婦がいなかったからである。

 荒木陽子の『愛情生活』はそんな二十代だった私にも「こういう夫婦ならアリかもしれない」と思わせてくれた本だ。
 著者は写真家の荒木経惟の妻で、名作写真集『センチメンタルな旅 冬の旅』(1991)の「妻・陽子」として有名だ。実は彼女は文筆家として評価が高くファンも多い。数年前に『荒木陽子全愛情集』という分厚い本が出たほどだ。本書はエッセイ、小説を収めた最初の単著であり、夫との出会い、結婚、夫婦生活などについて、折々に書いた文章が収められている。

 荒木経惟は天才アラーキーを名乗り、その自称の通りに世界的に著名な写真家になった。しかし陽子と結婚した当時はまだ電通に勤務するカメラマンであり、風変わりなファッションで銀座を闊歩し、結婚式で妻のヌード写真をスライドショーで披露するような型破りな人物だった。そんな彼に驚き、あきれながらも興味津々な彼女もまた個性的な人物だと言えるだろう。
 したがって世間から見れば二人の価値観は独特なもので理解されづらい。とりわけ突飛な行動をする夫を許す「デキた奥さん」と自分が見られることへの不快感をこう書いている。

「世間の人がよく言うような、勝手気ままな夫をフォローしている奥さん、という風に自分を思ってはいないし、彼の写真や行動を深く理解しているわけでもない。単なるオモシロガリの一観客に過ぎない。だから、私は自分をいささかも歪めていないし、犠牲的な気持になる事もないし、至って健康なものである」

 彼女は1990年に42歳の若さで亡くなり、荒木経惟はその死までの日々と、自身の最初の写真集でもあった新婚旅行の写真集を合わせて『センチメンタルな旅 冬の旅』をつくり代表作となった。つかず離れず、互いを認め合い、自由を尊重する(が、嫉妬も喧嘩ももちろんある)。荒木夫妻の作品から、夫婦は型が決まっているわけではなく、夫婦の数だけタイプがあっていいのだと教えられた。

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タカザワケンジ

たかざわ・けんじ●写真評論家、ライター、書評家
1968年群馬県生まれ。雑誌、Webに文芸書評、写真評論、作家インタビューを執筆するほか、文庫解説を手がける。『Study of PHOTO 』日本語版監修。金村修との共著に『挑発する写真史』がある。東京造形大学、 東京綜合写真専門学校、東京ビジュアルアーツほかで非常勤講師。

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