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日本人初参加! 豪大陸521キロのアドベンチャーマラソン、成長を感じた前半戦と美しすぎる星空

 2日目は、同じ国立公園内にある別のトレッキングコースを41キロだ。指先のテーピングを貼り直し、昨日と同じ朝食をとってスタート。公園内のトレッキングコースと聞けば、日本ではある程度、走りやすく整備されたイメージもあるかもしれない。しかし、ここは違う! とがった岩があり、親切な標識なども置かれていない。日本ではとてもコースにならないような環境だ。リュックを背負う肩が少し痛む程度で2日目も終えることができた。6時間40分、6位だった。ゴール後、おそらく足元の悪い険しい道のせいで転倒したのだろう、ひとりの選手の顔面に流血したあとがあった。もうひとり、理由は定かではないが、続行不能ということでリタイアとなったと知った。

 長期間のアドベンチャーマラソンを戦い続けるためには、致命傷となるトラブルをいかに防ぐか、いかに早く対処できるか、それが最も大切になることがわかってきていた。そのために自分に足りない部分や、弱い部分を知り、対策を十分に行う。僕にとってこのレースでは、マメを作らないこと、飽きない食料を準備すること、寒さ対策をしておくことがそれだった。また、勝負は距離が長くなってくる5日目からだと想定し、そこまでにいかにダメージを抑えるかを考えていた。2日目は41キロ約7時間で、行動食1050キロカロリーが底をつきかけた。距離の長い後半ステージはできればもう少し行動食を増やしたい。そのため走り終えた夜にとる食料を競技中に回すことにした。

 3日目は39キロ。徐々に選手やスタッフともコミュニケーションがとれるようになってきた。スタート後、まるでアフリカのサバンナのような場所を走り、チェックポイントに到着。急いで給水をしてスタッフにひと声かけた後、再びコースを進む。そのまま2キロほど進んでいくと突如、後ろから来たスタッフの車から声をかけられる。

「タカオ、間違っている! コースを外れている!」

 痛恨のミスだ。ここまでの距離、時間、体力、それらが一瞬で無駄になり、マイナスになった。精神的なダメージは大きかった。だが幸いにも、チェックポイントでコースの誘導の役割も担っていたスタッフがきちんと誘導しなかったということで、前のチェックポイントまでは車で運んでくれることになった。気を取り直して再スタート。結果、どうにか39キロを6時間22分でフィニッシュした。

 夜になると空いっぱいに無数の星が広がっていた。星は輝いている。こんなにもはっきりとした天の川は見たことがない。宇宙の彼方へと吸い込まれそうな空間に、重たい足の疲れもレース中であることも忘れてしまう。人生で一番美しい夜空だった。

 4日目の49キロも無事に終え、5日目の59キロを迎えた。

 4日間の食料、約2.5キロ分だけリュックが軽くなっていた。コースは徐々に平らな荒野となっていき、赤茶色の大地をひたすら進むことになる。ここから少し勝負してみようと3位集団についていくことにした。現状の順位や走りに慣れてしまった体に鞭を打つことで、自分の中の未知なる潜在能力を引き出したかった。長く走っていると、つい今のポジションを守るという理由をつけて、現状維持に慣れてしまうことがある。そのまま放っておくと守り一方になる。それが習慣になることは嫌だ。だからレース中であろうと、あえて攻める機会を作りたかった。15キロ付近まで1キロ6〜6分半ペースでいく。だが、集団についていくことができず徐々にペースが落ちてしまった。これまでの疲れがまっていたのだが、それでも少しタイムをあげることができた。チャレンジした納得感もあった。再びマイペースで走り、7時間36分でフィニッシュ。

「ザ・トラック」では前半5日間を終えると、スタート前に準備していた後半4日分の食料が受け渡されることになっていた。レトルトカレーやヨーグルトなど、今まで重くて背負うことのできなかった食事をとることができ、リフレッシュできた。だが、明日からは食料が増えた分、また重くなる……。5日間で220キロ。全長250キロの過去2レースならもう少しでゴールだ。しかし、今回は、まだそれ以上の300キロが残っているのだ……。

(次回に続く)
※第1回はこちら。第3回は11月25日配信予定です。果たして無事にゴールできるのか!? お楽しみに!

夜、空いっぱいに無数の星が広がっていた。北田さんいわく「人生で一番美しい夜空だった」。
夜、空いっぱいに無数の星が広がっていた。北田さんいわく「人生で一番美しい夜空だった」。

過酷すぎる挑戦と挫折、そして成長の記録!

「賞金なし!」「すべて自己責任!」「舞台は、砂漠、荒野、山岳、氷雪、ジャングル!」……そんな世界でもっとも過酷なレース「アドベンチャーマラソン」。日本唯一のプロアドベンチャーランナーとして『情熱大陸』などでも特集され、ここに人生のすべてをかける北田雄夫さんの挑戦と挫折と成長の日々をつづるノンフィクション。

2014~19年までで参加したレースの合計は、なんと、総走行距離5332㎞! 総時間1420時間! 総費用1280万円! 気温差75℃!
貧⾎持ちで小心者、暑さ寒さに弱く⻑距離⾛も苦⼿――そう自認する北田さんは、なぜ「日本人初の7大陸レース走破」を達成することができたのか。そして、なぜその後も更なる極限に挑み続けるのか……!?

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北田雄夫

きただ・たかお
1984年生まれ、大阪府堺市出身。中学から陸上を始め、近畿大学3年時に4×400メートルリレーで日本選手権3位。
就職後は一度、競技から離れるも「自分の可能性に挑戦したい!」と再び競技を始める。
2014年、30歳からアドベンチャーマラソンに参戦。
17年、日本人として初めて「世界7大陸アドベンチャーマラソン走破」を達成。
現在は「世界4大極地の最高峰レース走破」にチャレンジ中。

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