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オーストラリアの荒野521キロを走り抜く! 収入も語学力もない男が「地球上もっとも過酷なレース」に挑んだ理由

北田氏初のアドベンチャーマラソン参戦となった「ゴビ・マーチ」。この大会には日本人の参加ランナーも多く安心できたが……。
北田氏初のアドベンチャーマラソン参戦となった「ゴビ・マーチ」。この大会には日本人の参加ランナーも多く安心できたが……。

固定収入のないアルバイト生活

 同時に、そのころは収入面でもつらかった。アドベンチャーマラソンの世界に飛び込んでから約1年、貯金はすでに数百万円を使い、会社員時代の給料に代わる収入もなかった。もともと特別な資格も技能も持っていない。自己啓発のセミナー講師やスポーツイベント企画運営などをいろいろと試すが、まとまった収入を作り出すことはできなかった。やむを得ず、競技や遠征の時間を捻出できるアルバイト生活となった。

 飲食店、イベントスタッフ、知人の商品配達の手伝い、ランニングステーションスタッフ、営業代行など、いくつも掛け持ちした。飲食店では少しでも英語力を向上できるようにと外国人が集まるステーキ店で働いてみた。15人ほどいるアルバイトはほとんどが大学生。新入りの僕は学生から指導を受け、ミスをすれば学生に怒られる。みじめだった。競技では世界で生死をかけた挑戦をしているが、そんなことは当然、一切関係ない。ひたすら食器を片づけ、洗い、下ごしらえをした。結局、接客ができるまで昇進することができず、英語を学ぶこともできなかった……。

 イベントスタッフは、1日の単発勤務が可能だったので選んだ。寒空の下でのティッシュ配り、スーパーマーケットでの抽選会の仕切り、イベントの誘導係、いろいろやった。こちらもアルバイトの域を超えることはなかったが、街頭でティッシュを配るスキルだけはものすごく上達した。コツは、まず遠くからでもチラシなどではなく、ティッシュとわかるように 「○○のティッシュでーす!」と声をはりながら現物を見せて認識させておき、近づいてきたら相手の手元にジャストミートさせること。相手が受け取る行為をしなくとも、歩いていたら自然と手の中に入るくらいに、位置とタイミングをピタっと合わせる。そうすればかなりの確率で受け取ってもらえる。どんな仕事でも、より成果を出すための分析と実験は楽しい。アドベンチャーマラソンでも同じ、とても大切なことだ。

 ランナー専用のロッカーやシャワー、コミュニティを提供するランニングステーションは、ランニングに関することを学びたくて選んだ。ここでも同僚はほとんど大学生だったが、アドベンンチャーマラソンとつながることもあって、みな親しくしてくれた。常連も多いので、とても仲良くしてもらった。ありがたいことにスタッフも施設のシャワーを使えたので、自宅から18キロの通勤ランもできた。ランニングウェアでの勤務だったので、30分の休憩時間もまるまる走った。受付などで手が空いている時はランニング雑誌を読んで勉強した。自分にとって最高ともいえる環境で働かせてもらい、今でもランニングイベントの仕事を一緒にさせてもらう関係となった。

 そうして生活費を工面し、レース費は貯金を切り崩して活動を続けていた。今でこそ、人に言えるようになったが、当時はフリーターをしているとまわりに言うことが嫌だった。決まって受けるなにげない質問――この先どうするの? それ、うまくいくの? 会社を辞めて後悔してないの?――が本当につらかったからだ。誰もやったことのない道なのに、将来のことなんて今、言えるわけがない。同世代の友人たちはどんどん社会で活躍し始めている。それに比べて僕は前に進んでいるのか、いつ日の目を見るのかもわからない。気持ちをわかち合える人もほとんどいない。そんな時は、先人やいろんな業種で活躍されている方たちの言葉に触れて、くじけそうになる心を支えていた。

 そんな中でも大切にしていた言葉をふたつ紹介したい。

 ひとつが坂本龍馬の「世の人は我を何とも言わば言え。我がなすことは我のみぞ知る」という有名な言葉だ。僕の解釈では「世間は何とでも言えばいい。僕がやるべきことは僕だけが知っているんだ」。この年、僕はちょうど龍馬が亡くなったのと同じ31歳だった。
 龍馬に比べて僕はどうだ。自分を信じろ! いつか成功する! そう自分に言い聞かせる力をくれた。

 もうひとつがスタイリスト大草直子さんの言葉だ。「謙虚であるか、感謝しているか、挑戦しているか、学んでいるか、愛しているか、楽しんでいるか」。おそらくテレビだったと記憶するが、大草さんはそう自分自身に問いかけながら過ごしていると語っていた。
 実際に僕もやってみると雑念を取り払うことができ、素直な心になれることに気づいた。それからは手帳の最初のページにこの言葉を書いて、いつも自分に問いかけている。

(次回に続く)
※第2回は11月19日配信予定です。お楽しみに!

過酷すぎる挑戦と挫折、そして成長の記録!

「賞金なし!」「すべて自己責任!」「舞台は、砂漠、荒野、山岳、氷雪、ジャングル!」……そんな世界でもっとも過酷なレース「アドベンチャーマラソン」。日本唯一のプロアドベンチャーランナーとして『情熱大陸』などでも特集され、ここに人生のすべてをかける北田雄夫さんの挑戦と挫折と成長の日々をつづるノンフィクション。

2014~19年までで参加したレースの合計は、なんと、総走行距離5332㎞! 総時間1420時間! 総費用1280万円! 気温差75℃!
貧⾎持ちで小心者、暑さ寒さに弱く⻑距離⾛も苦⼿――そう自認する北田さんは、なぜ「日本人初の7大陸レース走破」を達成することができたのか。そして、なぜその後も更なる極限に挑み続けるのか……!?

書籍『地球のはしからはしまで走って考えたこと』の詳細はこちらから

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新刊紹介

北田雄夫

きただ・たかお
1984年生まれ、大阪府堺市出身。中学から陸上を始め、近畿大学3年時に4×400メートルリレーで日本選手権3位。
就職後は一度、競技から離れるも「自分の可能性に挑戦したい!」と再び競技を始める。
2014年、30歳からアドベンチャーマラソンに参戦。
17年、日本人として初めて「世界7大陸アドベンチャーマラソン走破」を達成。
現在は「世界4大極地の最高峰レース走破」にチャレンジ中。

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