2021.11.7
寿木けい『土を編む日々』スピンオフエッセイ&レシピ〜タイマグラばあちゃんのポテトサラダ
「よみタイ」の大人気連載に書き下ろしを加え、季節をめぐるエッセイと32の野菜レシピをまとめた1冊です。
本書の発売から約1か月、ご好評をいただいている御礼企画として、著者の寿木さんが書き下ろしエッセイを寄せてくださいました。
本の中で、寿木さんの忘れられない旅先として登場する、岩手県のタイマグラにある宿「フィールドノート」。
そこで出会った大切な人たちとの、その後の交流のお話です。
フィールドノートの味として愛され続けているポテトサラダの作り方も特別に教えていただきます。
タイマグラばあちゃんのポテトサラダ
人生を変えるような旅にひとつでも出会えれば、幸せではないでしょうか。
私にとってのそれは、2010年の初夏にひとりで訪れた、岩手県のタイマグラにある宿「フィールドノート」との出会いでした。このときのことは『土を編む日々』の〈北の春〉に書きました。ぜひ読んでみてください。
フィールドノートは、早池峰山麓のタイマグラ集落で奥畑充幸さんが30年以上前にはじめた宿です。そこへ、東京で編集者として働いていた山代陽子さんが遊びに来たことをきっかけに、ふたりは数年後に夫婦になります。以来、山小屋とも民宿とも違うスタイルで、たくさんのゲストを暮らしの中に招き入れてきました。
私が滞在した当時は、三人の息子さんたちと一緒に山菜を摘みに行ったり、兄弟が交代で薪で沸かしてくれ五右衛門風呂に入ったりして過ごしました。それから、雪解け水(岩手の春の訪れは遅いのです)で冷やしたビールのおいしかったこと! 台所から生み出される料理は、どれもとても滋味深くて、それを肴にしてほかのゲストとお酒を飲みながら夜中まで話し込んだことも忘れられません。
テレビもゲームもない生活の中で、息子さんたちは自分で遊びを考え出していました。クイズ大会と称した夜の団欒では、私は彼らが考えたなぞなぞにひとつも正解できず、降参しました。熊(良い子は真似しないでね!)や鳥の詳細な観察日記を見せてくれたことも、昨日のように覚えています。
いまや三人とも成人し、それぞれの道を歩み始めていると聞いて、あんなにあどけなかった子どもたちが──年月の重みに驚きます。
今回エッセイに書かせてもらったことで、ありがたいことに、再び交流が生まれました。11年ぶりに山代さんに電話をしたら、
「◯◯(私の旧姓です)さん!」
と覚えてくれていました。うれしかったです。
あれから11年経って、今、どんな料理を作っていますか、よかったらいくつか教えて下さいとお願いしました。そこで挙がったのが、自家製のマヨネーズで作るポテトサラダ。映画『タイマグラばあちゃん』(2004年/澄川嘉彦監督)で有名になったマサヨばあちゃんの「発明」を引き継いでいるというそのレシピを、私もいただきました。