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若手編集者が語る逢坂剛さんのここがすごい!――『ご機嫌剛爺』刊行特別企画

逢坂さんからの“宿題“?

I:そう言えば、この本の中に、新入社員の新担当に“宿題”を出したっていうエピソードが書かれていたけれど、これってTのこと?

T:はい、僕のことです(笑)。

I:昭和30年代初め頃に、朝日新聞社の入社試験で出された、穴あきになった日本語の表現を、ひらがなで正しく埋めるもので、例えば、

「草むらに○○く虫の声」
「先日〇〇りなくも古い写真を発見」

といった問題。21問あった中で、Tの回答が期待以上の正答数で、逢坂さんが驚いたって書いてあったね! やるじゃん。(上記の問題の答えは“すだ”と“ゆく”。)

T:もちろん何も見なかったら答えられない問題が多かったのですが、辞書などを使って調べても良いとのことだったので、様々な資料にあたって何とかわかりました。言葉の調べ方の勉強にもなりました。逢坂さんなりの若手への啓蒙だったのだなと。
同時に、逢坂さんが「言葉」というものをすごく大切にされているのを感じました。作家として「言葉」に対してプライドを持っていると言いますか。

I:逢坂さんの言葉へのこだわりは、原稿だけじゃなくて、メールのやり取りでも感じるよね。

T:そうなんです! 先日いただいたメールは、文面が途中から「旧仮名遣い」になっていました。「もちろん小生も、新仮名遣いで教育を受けた世代ですが、ときどき旧仮名遣いになることがあります」って(笑)。

I:メールの文面が毎回ユーモラスで面白いんだよね。
逢坂さんは担当になった若手編集者に、編集者の仕事に役立ついろいろな本や情報を教えてくれる。こういうのってすごく嬉しいしありがたい。
自分の場合は、最初の担当引き継ぎで鰻を食べながら、逢坂さんに『ベストセラー小説の書き方』(ディーン・クーンツ著,朝日文庫)を渡されたんだよね。〈エンタメ小説〉の勉強になるからぜひ読んだほうが良い、と。実際に、すごく参考になる本だった。逢坂さんは、新人編集者に渡す用に、『ベストセラー小説の書き方』を何冊も買い集めているらしいよ。

T:僕の場合は、何度か古い西部劇のDVDを逢坂さんに貸してもらいました。『OK牧場の決闘』とかです。貸していただく際に「このシーンの、この女優の表情が素晴らしいんだ」等、演出や演技の見どころをいつも説明してくださる。その点に注目して観ると、以前観たことがある映画でも、全然違う魅力が伝わってきました。

編集者Iが逢坂さんからいただいた『ベストセラー小説の書き方』(朝日文庫)
編集者Iが逢坂さんからいただいた『ベストセラー小説の書き方』(朝日文庫)

周囲を元気にしてくれる陽のエネルギー

I:Tは逢坂さんの神保町の仕事場に行ったことはある?

T:お部屋に入ったことはないですね。

I:ギター、モデルガン、古い資料などなど、逢坂さんの趣味が詰まった楽しい場所だから、ぜひ入れてもらった方がいいよ(笑)。

T:この本に仕事場の写真が載ってましたけど、逢坂さんってワープロを使って執筆されてるんですね。縦長のディスプレイで、こんなものがあるのか……って。

I:シャープ製の〈書院〉っていうワープロが、日本語の文章を書くという意味で、PCよりもずっと良いって本にも書いてあったね。でも逢坂さん、編集者に原稿を渡す際は、必ずワードファイルに変換して、読みやすいように整えてからメール添付でデータを送ってくださる。

T:フロッピー(?)じゃないんですね。すごくありがたいです。

I:そうそう、入稿も素早くできる。
さっきの本や映画の紹介の話にも繋がるけど、逢坂さん、自分たち担当編集者が楽しく、負担なく、かつ学びながら仕事ができるよう、いつも気遣ってくださってるんだよね。

T:それはすごく感じます。何というか、逢坂さんに会うたびに〈陽〉のエネルギーをもらっているような気がします。本の中で、スペインの道中から生まれた人付き合いの素敵なエピソードがありましたけど、逢坂さんの人柄の素晴らしさですよね。

I:誇張でなく、本当にいつも〈ご機嫌〉。
実は昔、逢坂さんの雑誌連載を担当していた時に、自分のスケジュール管理ミスで、逢坂さんにご迷惑をかけてしまったことがあったんだ。そういった時でも、逢坂さんは嫌な顔ひとつせずに、じゃあどうやったら間に合うかいろいろと提案してくださって、結果として良いものを掲載することができた。何度も助けていただいたし、いつでも〈ご機嫌〉だから、仕事をご一緒していて、気づけばこちらも楽しくなる。

T:この本を読んで、機嫌良くいることの大切さを、改めて感じました。自分もこうありたいです。
周りにいる不機嫌そうな人たちも、逢坂さんくらい〈ご機嫌〉だったら……

I:(笑)

『ご機嫌剛爺』好評発売中!

小説家、逢坂剛、77歳。直木賞をはじめ数々の受賞歴を持ち、小説家として第一線で活躍し続ける一方、フラメンコギター、スペイン語、古書収集、野球、将棋、西部劇などの映画に精通し、多芸・多趣味でも知られます。ユーモラスで温厚な人柄から、敬意と親しみを込めて「剛爺(ごうじい)」と呼ばれる小説家の<上機嫌生活>指南書。
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新刊紹介

逢坂剛

おうさか・ごう
1943年東京生まれ。80年「暗殺者グラナダに死す」で第19回オール讀物推理小説新人賞を受賞。86年に刊行した『カディスの赤い星』で第96回直木賞、第40回日本推理作家協会賞、第5回日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞。2014年、第17回日本ミステリー文学大賞、15年『平蔵狩り』で第49回吉川英治文学賞を受賞。20年、「百舌」シリーズ完結時に第61回毎日芸術賞を受賞。

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