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【対談】麻布競馬場と冬野梅子が考える「東京に来なかったほうが幸せだった?」

ミニ四駆のレースコースのような人生

麻布 ずっと「芝浦的価値観」に突き動かされて生きてきたから、降りたらどうなるんだろうって、それは確かに考えるんですよね。まるっきり降りた人が周りにあんまりいなくて。
逃げ道って、実は世の中にいっぱいあるじゃないですか。仕事がうまくいきませんでしたってなっても、僕には家庭があるからいいんですよとか、僕には趣味があるからいいんですって。
最近、友達がミニ四駆、始めたんですよ。「なんで始めたの?」って聞いたら、「欲しくなったから」って言って。彼はレースコースみたいなの、家に置いてるんですよ。息子と日々、シャーッて走らせてるんですけど、すごいきらめいて見えるんですよ。

冬野 本当に今、絵が浮かんで、「幸せの図」過ぎて……。

麻布 確かに幸せな絵なんですよ。でも、よくよく聞くと、ちょっと仕事うまくいかなくなって、メンタルをやられて休職とかしちゃって、今、奥さんの稼ぎで生活してる。

冬野 意外といろいろ抱えてたんですね。

麻布 その結果、彼が手を出したのがミニ四駆で。彼は彼の幸せを見つけようとしてるんだと思って、すごくいいものを見たなと思ったんですよ。

冬野 それがミニ四駆だったんだ。
麻布さんの本に出てくる人たちっていうのは、みんなとりあえず住まいとかライフスタイルがすごくいいじゃないですか。だから、それだけでもういいじゃん、もう完了したじゃんって見える人たち。それでも虚無感みたいなのがあるっていうのを知ってしまうと、「じゃあ、もう無理じゃん」って思う。私の描いてる主人公たちはお金がないから、せめてお金、って思って頑張って次の段階に進めたとしても、そこで麻布が待ってるみたいな……。

麻布 麻布が待ってる(笑)。 東京って、すぐ次のトーナメントがあるんですよね。
SUUMOを見るのが好きなんですよ、僕。

冬野 SUUMOを見る?

麻布 キャラクターがまず抜群にいいじゃないですか。よく見るとわけがわからないし。

冬野 キャラクターありますね、緑の。

麻布 SUUMOでこの間、引っ越したんですよ。白金高輪のすごい終わってるマンションに引っ越したんですけど、探すときに不動産サイトって家賃を設定できるんですよね、「何万~何万まで」って。
出てくる物件があんまりしっくりこねえなと思ってたら、どこかの不動産サイトの下のほうに悪魔のささやきが書いてあって。「あと1万予算を上げると、この家に住めます」っていう。
こういうことだよなって、すごく嫌な気持ちになって。おまえの稼ぎが低いせいで、おまえは満足できる家には住めません!って言われてるみたいな。煽られてるなって、そのとき痛感しました。

冬野 でも、物件見るの楽しいじゃないですか。あと1万でいい部屋住めますってなったら、もっと頑張ればいいかと思って、いったん見ちゃいますよね。

麻布 そうなんですよ。それを繰り返して、結果、予算プラス3万の家に今、住んじゃってて。上からも下からもドンドンドンドンって、人が壁を叩いてくるようなマンション。

冬野 でも、重版がもう決まったんですよね。

麻布 はい。ありがたいことに。

冬野 とりあえずしばらくの家賃分は大丈夫。

麻布 印税ドリームによって、一時的に上げた予算分はなんとかなるんですけど。でも、ミスったな、本当に。今年一番の失敗なんです。なんであんなマンションに住んじゃったんだろう。

 

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冬野梅子

漫画家。2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。2022年7月に、派遣社員・菊池あみ子の生き地獄を描いた『まじめな会社員』(講談社)全4巻が完結。
最新刊は『スルーロマンス』(講談社)全5巻。

Twitter @umek3o

麻布競馬場

あざぶけいばじょう
1991年生まれ。慶応義塾大学卒業。
著書に『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)、『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)。

Twitter@63cities


(イラスト:岡村優太)

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